2014年5月4日


ぽえむを書きます。


昨日(5/15)発売の「月刊バレーボール」にジェイテクトの大矢佳祐選手の引退情報が掲載されている。


わたしは彼の引退を十日ほど前から知っていた。今まで(バレバレながらも)はっきりとは書いてこなかったけれど,月バレに載ったのならもう黙っておくこともないと思うので,書く。


5月4日の思い出。


トーナメントの1回戦,ジェイテクトは第3試合で堺に敗れて,大会を終えた。試合後,わたしは引き続き次のJT-豊田合成の試合前のアップをまったりと見ていた。そこに,もう帰るからと先に体育館を出た友人*1から,LINEがとんできた。「大矢さん,引退です」。


意味がわからなかった。悪い冗談を言うような人じゃないから。


意味がわからないから,一緒に見ていた友人*2が所用で席を外したあとも,その背中を見送ってしばらくぼーっとしていた。


目の前,そろそろ試合始まるし。見たいし。


でも,信じられなくてちゃんと確かめたくて,正面入り口まで出てみた。


そしたら,そこには,もうどこからどう見てもそうとしか取れない光景が広がっていた。悲嘆に暮れているファンがたくさんいて,大矢さんが順番にぽつぽつ話をしたり写真を撮ったりしていた。そして,彼のことを応援している友人*3が泣いていた。


見ていてあんなにつらい光景は,そうそうない。あってほしくもない。


そんな風に泣く日になるはずじゃなかったのに。


ばか。うそつき。


わたしの好きなあのこを泣かせているおまえが憎いとありったけの念を込めてガンを飛ばしてみたけれど彼のところまで届くわけはなくて,泣いている彼女を見ていられなくて,スタンドに戻った。もといた席がわからなくなって隣のブロックに座るぐらいには茫然自失だった。


好きな人がつらいときに,何の声もかけられない自分の無力さや身勝手さを思いながら。


試合はもう始まっていた。緑のユニフォームが試合をしていた。


彼らは大矢さんの引退を知っているんだろうか,そもそも今でも交流はあるんだろうか。知っていたにせよいないにせよ,今試合をしている彼らとこれから帰る大矢さんとは交わらない。


2011年の東海大学を思った。あのときコートにいたスタメンの7人全員がプレミアリーガーになり,それぞれのチームにちりぢりに別れ,そして,今日,一人プレミアのコートから去った。


わたしはチームのファンでもないし,大矢さん個人のファンでもないかもしれないけれど,今あらためて振り返って,2011東海大が好きだったんだと思う。かの友人とも,当時,たくさん話をしていた。周りに東海大を好きな人もあまりいなかったから,ささいなことやくだらないことや,要するに「かわいいよね」「かっこいいね」を言葉をかえてひたすら。小澤さん,安永,塩ちゃん,神ちゃん,平尾くん,大矢さん。いっこ下に臣,あべじゅん,星野。もひとつ下に,鶴ちゃん。年度が始まる前から「八子の穴が−」と言われ,震災の影響で春のリーグがなくて,最初の公式戦だった東日本インカレは(当時としては不本意きわまりない成績だった)準々決勝敗退。秋のことはさっぱり覚えていないけれど,10冠未遂の立役者がひとりいなくなった翌年のチームが,前年ゆいいつ取れなかったインカレを制した2011年。


そのチームを支えていたのは間違いなく大矢だった。レセプションもディグも,チームで最初にボールを触り,きちんと次に渡す。後衛の真ん中でディフェンスを率い組織する。扇の要。プレーはそつがなくてしれっとしていて,そのわりにガッツポーズは熱い。


それからまだ2年ちょっとしか経っていない。この春で3年目に入ったばかり。こんなに早くやめる覚悟はできていなかった。


大学時代から何年も一方的に見ていた選手だけれど,今日を最後に二度と姿を見ることもないのかもしれないと思い至り,楽しかったことと応援していたこと,好きだったことだけは言いたくなって,もう一度外に出た。いなくなっていたらすっぱり諦めようと半ばいないことを期待していたのに,幸運か不運か,まだ,外でファンと話をしていた。


とっくに集合時刻も過ぎていそうな雰囲気だったから,通路を歩きながら,少しだけ話をした。話というほどの話はなくて,自分から選手に話しかけるのも初めてだからうまく喋れなかったけれど,ただ,ありがとうございました,だけは言えた。それで,もう思い残すこともないと,そのときはものすごくさっぱり満足できた。あちらがどう感じたかは知らないけれど,わたしはわたしのわがままを通した。そのことでまたしばらくくよくよもしたけれど,あの日までは,「ファン」と呼ばれる得体の知れない見知らぬ人にいきなり話かけられてもある程度の対応はしなければならないのも仕事の内だろうと都合良く解釈して,いいことにした。


でも,伝えそびれたことがある。


もっとプレーを見たいよ。卒業してからプレーを見たのって,1年目の2012年天皇杯東海ブロックラウンドぐらいじゃないか。12/13シーズンも13/14シーズンも,試合をほとんど見ていないけれど,自分が見た数少ない試合においてベンチ入りこそあれ出場した記憶がない。


最後となった今年の黒鷲旗もユニフォームは着たけれど,(自分が見ている範囲では)試合には出なかった。グループ戦の最初2日はベンチアウトだった。


おそらく入団後の公式戦の出場機会はほとんどなく,そこに今年本間が入った時点で思うところはなくはなかった。だから100%「想定外」と言い切れない自分もいる。でも,早い。ジェイテクトというチームを去るのは仕方ないこととしても,バレーをやめるには早すぎるしもったいなすぎる。


今のチームでうまくいったとは言えない。でも,人生うまくいくことばかりじゃないし,そのときはまた新しい道を進めばいい。やめた理由はわからない。ただ,身体に故障を抱えているのでないなら,そして嫌になったのでないなら,どこかで続けてほしい。そうしたら,またプレーを見られることもあるだろうから。東海地区,クラブチーム多いし盛んだし。だから。


いつかどこかで楽しそうにプレーしている試合を見られるように願っているから,「お疲れ様でした」は言わなかった。その「から」の前部分を伝えそびれた。

*1:と一方的に思っている

*2:と一方的に思っている

*3:と一方的に以下同文