新春歌舞伎公演「通し狂言 南総里見八犬伝」@国立劇場


南総里見八犬伝」は,国立の正月によくやる「復活狂言」のカテゴリとはちょっと違っていて,近年(昭和以降というか)にもちょいちょいかかったことがある。国立劇場でもやっているし菊五郎丈も何度もつとめている由。


ただし,脚本・演出は改めたところがある,由。


南総里見八犬伝」という作品そのものが,まるで少年マンガのよう。順番はおそらく逆だけど。「読本」というと当時の書籍の中では高等(高尚?)の部類に入ったらしい。装幀も立派でお値段も高かったので,貸本屋経由で読まれたとか。漫画でもなくラノベでもなく「単行本」といったところだろうか。


内容はラノベか漫画か,としか思えないんだけどね。8つの文字が浮かぶ水晶玉が飛び散って,それをもっている八犬士は姓に「犬」の文字があり,名にはもっている水晶玉に書かれているのと同じ字が入っている,そして身体のどこかに牡丹の痣があるという厨設定。不思議な縁で結ばれた8人の犬士が次第に集まって,里見家再興のためにうんちゃら,という冒険譚なのかなんなのかよく知らないけれど。如何せん長編過ぎて,通し狂言だからといってそのストーリーを網羅できるはずもなく。


こういう設定の漫画を昔少年漫画誌でよく見かけた。玉が飛び散るのはドラゴンボールですな。


プログラムにちらっとだけ載っていた原文が,夏の利根川縁の屋根の上という情景を目に浮かぶように写実的にかつ流麗な七五調で描いてあって,これは原作を読んでみたいと思わせるものだった。もちろん実際には読もうとしても知識もなければ文章も慣れていないので楽しんですらすら読めなしないけれど,刊行当時大人気になったのは容易に想像がつく。


お芝居の筋自体は,書き下ろしで付け加えた大詰がどうにかならなかったのか,とか(非常に歌舞伎らしいといえばらしい。白浪五人男のラストシーンっぽくもあるし,曽我物っぽくもある),正月菊五郎劇団なのにチャリ場少ないなとか,いささか不満も残らないわけではなかったんだけども。見終わった直後には歌舞伎らしくないと思ったけれど,冷静になってみると非常に歌舞伎らしい歌舞伎だった。


「歌舞伎」ってお話しの内容じゃなくて手法なんだよなあ。型というか。頻繁にかかっている狂言にしたって,内容(種類)は多岐にわたる。それよりも,ひとつひとつ型を作っていくような人の動きかただとか,花道の使い方だとか,下座音楽の入り方(太鼓が雪とか)だとか,分かりやすい歌舞伎らしさが散りばめられていた。飛び六方も出てきたしだんまりもやった。砥の粉の顔の敵役もいたし,色悪もいたし,腰元もいたし(?),お姫様も出てきたし(赤姫じゃないけど),世話場もあった。四天も出てきて立ち回りでトンボ切った。


犬江親兵衛の尾上左近 is 誰と思ったら藤間大河くんが去年襲名&初舞台だったそうで。まだ8歳。かわゆい。二幕のだんまりのシーンでは,犬のかぶり物(ぬいぐるみのお腹が開いたような,もっといえば,近頃子ども向け中心に頻繁に見かける,フード付きタオルそのもの)を被って出てきて,ちんまくって超かわいい。大詰のシーンではずっと剣(?)を捧げ持っていて,その左手がぷるぷるしていた。がんばれ。


浜路の梅ちゃんもかわいかった。すっかりヒロイン役が板についてきた。


旦毛野(実は犬坂毛野)のゴージャスな中華風衣裳の剣舞,お衣裳素敵でしたん。弟子の梅ちゃん(二役)と右近(二役)のお衣裳も素敵。右近は中華風の結い方をしているとちょっと下ぶくれに見えて,それもかわゆかったですの。


あと犬村大角の萬太郎さんと馬加鞍弥吾の市村竹松丈も二人とも若々しくて素敵。犬田小文吾&犬川荘助の亀亀兄弟はもちろんとっても素敵。ああかっこいい。亀三郎丈がスワローズファンなもので好感度うなぎのぼり。


そんなところか(え)。


左近パパこと松緑さんは左母二郎が色っぽくて,ぐへへだった。右手を袖から抜いて襟のところからちらっと出している,その襟をつまむ指先の仕草がいちいち色っぽい。そして,悪そう。左母二郎に騙されて(唆されてなのか拐かされてなのか)挙げ句に殺されちゃった浜路は不憫だけれど,左母二郎たぶん悪い人なんだけど,でもあんなに色っぽいお兄さんなら,そのままついていっても良かったんじゃないかと思ったね(無理よね)。


松緑は犬飼現八との二役で,現八のほうは,なんと言っても芳流閣での犬坂信乃との大立ち回りの場面。息詰まる屋根の上の立ち回り,息ぴったりで形がぴしっと決まっていて,息ぜえぜえのハードさで迫力もあって,回り舞台を半分回して屋根が斜めになっている演出も面白くて,見応えあった。全体的に立ち回りが多くて(やや多すぎて)どうかと思ったけれど,この場面は文句なしに,今まで見てきた立ち回りの中でも面白い方だった。


菊五郎さんと時蔵さんはどっしり構えて出番少なめ,その分菊之助(信乃)ががんばらされている感があり,個人的には嬉しかった。信乃の浅葱と鴇色の衣裳は良いよねえ。


そうそう,浄瑠璃と三味線が舞台上手でオンステージになっていたところの三味線のソロもすっごいかっこよかった。


チケット代たっかいなーと思いながら買ったんだけど(それでも歌舞伎座より安い),歌舞伎って登場人物ぜんぶ生身の人間で,BGM(下座音楽)まで生演奏なんだから仕方ないよな。贅沢よな。夕方からの公演だったからか,平日のわりに客入りは良かった。おめかししている観客の着物姿で目の保養をして,舞台上の女の人の着物姿に眼福して,三味線のべべべんにでれーっとする。しあわせ。


チケット売り場で対面で買ったの初めてだったけど,販売の人に見やすい席はどこですかとたずねて教えてもらって,実際とても見やすかったから満足。8列目でした。手拭い撒きは僅差で取れなくて残念だった。