団菊祭五月大歌舞伎・昼の部(石切梶原幕見)


石切梶原!!!!!!!!!!


月−金日中勤務の労働者のはずなのに,先の金曜午後に引き続き,午前休を取って東銀座は歌舞伎座へ。金曜まるまるは休めないとなった時点で猛烈にスケジュールをにらんでにらんで,ここならなんとかなる(タスクのことはおいておいて少なくとも時間拘束のある予定が入っていないのがここだけだった)という結論に無理矢理した。


平日だし(言うても菊五郎さんとこだし)と高をくくって,で,朝イチから通勤電車ラッシュにまみれるのも嫌なので少し時間を遅らせて,それでも30分前ぐらいには着いたあね。整理番号86番,チケット売り場では「立ち見です」と言われた(座れたけども)。


すごいな,幕見。


幕見デビューでした。幕見は当日券のみだけど,昼の部は昼の部で通しで買える,し,発売時刻のはるか前から並んでいる人もいる。なので,並んでいる間に列整の係の人に,どの幕からどの幕までを買うつもりか訊ねられるわけです。


既に吉野山待ちの人もいるなか「石切梶原です(きりっ」。


幕見のお値段,ざっくり1時間ぐらいまでなら1000円,1時間半ぐらいなら1500円,2時間近いものは2000円,という感じ。4階だけど想像していたよりは見やすくて,売店さえも入れない色気のなさを別にして,演目を見ることに特化すれば十分。コストパフォーマンスの高さ(金額のメリット)がデメリットを補ってあまりある,すばらしい席だった。


そうそう並べないけども。


外国人客が多かった。圧倒的に多かった。そりゃそうだ。日本に旅行に来て,日本の伝統芸能をちょっと見てみたいけど2万円出して4時間もいるのは限られた旅行の中ではお金も時間ももったいない。たくさん並ぶといっても人と一緒ならおしゃべりしてればいいし,トータルでは短時間。


梶原平三誉の石切。昼の部の最初の演目,正真正銘9代目彦三郎の襲名狂言。なのでどうしても観たかった。


「対面」のある種のゆるさと違って,石切梶原の主役はしんどい。


石切梶原も,観たことがあったかなかったかもうわからんのだけど,9代目,まだまだ伸びしろはあるんだろうなとは感じた。もっとすごい役者がやればもっとすごい梶原平三になるんだろうな,とも。


それは名前や今までの実績で勝手に思い込んで(決めつけて)ないものを想像している部分もあるし,最終週とはいえ背負う物の大きさや緊張も伝わってくるし,わたしの勝手な願望(「もっとすごい石切梶原にできるはず」)もある。


ただ,予想以上に素敵だった。良い意味で予想裏切られたし予想をこえた。彦三郎,全然主役できるんじゃん,って思った。


主役が偉くて脇役が偉くないわけじゃない。脇こそお芝居全体に影響を及ぼす。そりゃそうだけど,わたしはただの役者好きなので,できれば長い時間舞台に出てて欲しい(それを観たい)わけです。今月かなり会社員としてダメな感じになってるのも,この機会を逃したら主役(級)を観る機会なんてそうそうないだろうと思ったからで。


でもねえ。いけるよ。いける。もっと主役やろう。松竹さんお願いしますよ。交友関係広いよ。プロ野球界隈からも新たな観客動員が見込めるよ。或いは音楽方面も。けっこう知名度あるよ?


派手ではない。向き不向き(似合うに合わない,歌舞伎で言えばニンだとかニンじゃないだとか)もそりゃあると思う。これから研鑽を積めば,の前提でもある。


が,なんか,観てて気持ちがいい。すっきりというかさっぱりというか。そりゃあんたがファンだからでしょうと言われたらそれまでですが。ええそうですともその通りですとも。


他に褒めるところがないのかと勘ぐりたくなるぐらい,今回の襲名関連の記事等でさんざん見かけた評だけれど,彦三郎は声が良い。大声じゃなくてもはっきりしていて台詞が聞き取りやすいのもお芝居に於いて大切な要素だ。


それに,佇まいというか顔というか,雰囲気も好もしい。「対面」の五郎の若々しい血気盛んな様子はびっくりするぐらい素敵だった。石切梶原は(さきに書いたように)もっと渋くもなれるだろうけれど,動きがひとつひとつきちんと決まり,長台詞が聞かせる。


初めて歌舞伎を観たときに出ていた菊之助助六の揚巻と記憶しているのだが,わたしの記憶はよく改ざんされている)がきっかけで,菊五郎のところを選んで観ることが多く,その流れで亀亀兄弟(当時)を知った。「ちょっと気になる良い感じの脇の兄弟」だった。弟のほうは赤面の役も多くて,(こういう表現が適当かわからないけど)きっぱりした立役だなあと。


兄の新彦三郎がスワローズファンと知ったのは最近で,それでぐっと親近感が湧いた。Twitterのアカウントをフォローして,歳も近くて,親しみは感じつつもすっかりスワローズ芸人路線に認識が方向転換しかけていたところに,今回の襲名興行で,本業の役者としての魅力を再認識させられた。


菊之助から推し変したわけじゃないが,推したい役者が増えた。推すっても,大それたことはなにもなく,とりあえず襲名特集な「演劇界」の6月号と7月号を買って,国立劇場の6月と7月の歌舞伎鑑賞教室を観に行きたいな,程度のゆるーいゆるーいライトさですが。


松竹さんお頼み申します。