三月歌舞伎公演@国立劇場(大劇場)


先月のイベントでおすすめされていた,「菊之助が初役で新三」を観るべく,国立劇場に。某方面から割引チケットのご案内もあったのだけれども,割引権利を有している筋とうまく連携が取れず当日になってしまった。こちらも前もって予定を決めきれないでいたのでしかたない。起きられる自信がなかったし,実際,起きたのは間に合うかどうかぎりぎりの頃合いだった。


後悔するよりもとハイスピードで支度をして家を出る。面倒が極まっていたので,切符は当日劇場の切符売り場で購入。3階は売り切れ居ていたが1等Bに少し空きがあった。

増補忠臣蔵 本蔵下屋敷


十段目の「エピソード0」的二次創作。そも,十段目を観たことがない。


桃井若狭之助:鴈治郎加古川本蔵:片岡亀蔵,三千歳姫:梅枝,井浪伴左衛門:橘太郎 ほか


主従のなんちゃら,なのだが,別れの場面のお互い名残が尽きない様子がぐっとくる。二十五年仕えてくれてありがとう。うおおおおおん。ひょうきんな役も多い亀蔵さんだけど,渋かった。がんじろはんも,いい殿様であった。


梅枝の三千歳姫が,ピンク色のお着物に頭につけてるのもピンクの絞りで,めちゃかわいかった。そして,お琴を弾いて唄うシーンがあるんだけども,オンステージで生演奏生歌だった。うおお,ほんとに弾いてる! ってなって手元ガン見。三味線とのアンサンブルがかっこいい。贅沢贅沢贅沢。梅ちゃんかっこいいすごい。


蛇の足的なアレとして,イヤホンガイドの解説が残念ながらあまり好みでなかった。とくに前半は,役者の台詞以外をトークで埋め付くさんばかりの勢い。十段目を知らない人でも,プログラムや上演台本*1を買わない客でも分かるように,と叮嚀に背景説明をしていたのだが,目の前の舞台に直結しない忠臣蔵仮名手本忠臣蔵の説明が長く,聴いていると舞台がおろそかになる。義太夫に被ってしまうのは解説者に依らないイヤホンガイドの宿命だが,せめて梅枝のクドキの場面は,見せ場なんだからじっくり見せてほしかった。むしろ振りの解説をしてほしい。


文句を言うならイヤホンガイドを借りなければいいし,借りてもOFFしてしまえばいいのだがその勇気が出ないチキン。イヤホンガイドから自由になりたい。自分の耳で勝負したい(できない)。所作事があるときはやはり欲しい。幕間の小話も楽しいしね。

梅雨小袖昔八丈 髪結新三


髪結新三:菊之助,白子屋お常:萬次郎,忠七:梅枝,下剃勝奴:萬太郎,車力全八:菊市郎,お熊:梅丸,加賀屋藤兵衛:権十郎,弥太郎源七:團蔵,家主長兵衛:片岡亀蔵,家主女房お角:橘太郎,紙屋丁稚長松:寺嶋和史 ほかの皆様


菊之助の新三に折々,端々,おやぢさま(当代菊五郎)が透けて見える。観たことがあるのかないのか,わからない。話の筋にデジャヴ感はない。黙阿弥の有名な世話狂言だから,観たことがあると錯覚しているだけかもしれない。でも,やっぱり観たことがあるような気がする。菊五郎の新三に時蔵の忠七で。


観ていないのに「このへんは菊五郎にそっくりだナァ」とか「菊五郎ならここはもう少し柔らかくこんな感じで(脳内再現)言うかな」なんて想像できるほど詳しくもないはずだし。


というもやもやをかかえたままでした。


帰宅してから調べたら,2011年の秋に新橋演舞場歌舞伎座改装工事中)で観てました。勝奴が菊之助で,お熊が梅枝だった。役者までまめに記録しておいた当時の自分は偉い。筋書を開いても昼の部を観たのか夜の部を観たのかも思い出せないので。


改めて,菊五郎ってすごいんだなあって思った。最初に観た役者の芝居ですり込まれているだけなのかもしれないけれど,それにしたって,6年半くらい前に1度観たきりのお芝居が,大筋は忘れているのに要所要所でよみがえるのだから,それだけ観た人の中に残る芝居ってことでやはりすごい。


けして菊之助がだめだとかじゃなくて。年齢で言えば今の菊之助のほうが近いっぽい。かっこいいし,色気もあるし,凄んでいる様はほんとうに怖い。大家の前でちっちゃくなっているのもかわいい。あんたたちデキてんじゃないの,っていう勝とのやりとりもかわいい。


勝奴,去年の10月の種との双子ちゃん以来,萬太郎がかわいい。「あー,いるいる,こういうかっこつけて粋がってる若いチンピラ」っていう圧倒的リアル感(笑)。新三も若いので,親分,というより,兄貴ラブ,な雰囲気で。ちょいちょい見せる悪そうな笑みがたまらん。


プログラムの出演者コメントで彼は,いかにも小道具を扱っているのではなくそこで生活しているように見えることが大切云々と言っているのだけれども,そういう感じは,わかる。


たくさん笑って,たくさん突っ込んで,楽しいお芝居だった。家主夫妻最強。丁稚の和史くんもかわいかった。4歳男児ってかわいい男児のかわいさがこぼれんばかりの年頃だと思うわ。


国立劇場のお財布への優しさもあいまって,たいへん満足。打ち出し後に東銀座に移動して夜の部の「滝の白糸」の幕見も考えていたが,休憩を挟みつつとはいえ2演目4時間に少々疲れたので,終演後に劇場前から出る都バスに乗る。半蔵門の駅だってちっとも遠くないし,都バスは地下鉄よりちょっぴり高いけれど,便利で楽で,都内の道路を走るのも珍しくて楽しいので,つい乗ってしまう。


劇場前ロータリーの縁,皇居に面した日当たりのよい斜面の桜はもうつぼみが開いていた。春めいて華やいだ気分になる。


新宿西口行きのバスの終点は新宿西口のバスロータリー。家に帰るにはすごく便利,だけれど,それより手前,新宿三丁目で少し停車時間が長かったので,ついふらっと降りてしまった。そして伊勢丹に足を踏み入れたワタクシは……(以下次号)。

*1:国立劇場はこれがある。買えば良かった。