「ブレストの乱暴者」(河出文庫)読了。

読み始めたばかりのころはさんざん「難解だ」を繰り返していたけれど,がんばって読んでいたらそのうち慣れてきた。どうやら,彼の小説はことごとく時系列を無視して書かれているものらしい。時系列がそこまでばらばらなのに矛盾を生じずに話が展開していくところがすごいと,例の「ジュネ伝」では書かれているが,いや,単に読みにくいだけですぜ。公募の新人小説賞に応募したら下読みさんのところで落とされてしまうんじゃないかと思うんだが。


最初はちんぷんかんぷんだったけれど,ある程度読み進めればそれなりに時間のピースが埋まっていくし,それに「考えても仕方ない,前後の関係は気にしない」というたいそうおおらかな境地に到達することができれば,後は比較的さらさらと。


もう一つの(難解である)理由として,翻訳済み日本語の用語が難しいということも挙げられる。知らない言葉が多い。それは,事象そのものになじみがない言葉もあれば,今はほかの言い方をするのが普通という言葉もある。前者の例は淫売屋用語だとか海軍用語,それから洋服に関する記述(いつごろの時代の話で人々がどんな格好をしているかを知らない)。後者の例は,たとえば今日のタイトルの「接吻」だったり,「赤葡萄酒」だったり。意味はわかるんだけどね。漢字が多い。澁澤先生の訳をさらに現代語訳してあれば,もう少し読みやすくなるだろう。読みやすくなる必要がどれほどあるか,また,読みやすいことが果たして翻訳として適当であるかは別として。


「女衒」ってずっと「せげん」と読むのだと思っていた。「ぜげん」が正しいのですね。意味がいまいちはっきりしないので辞書をひいたらそんな感じ。辞書的な意味では,江戸時代に女性を遊郭に売ることを職業としていた男性のことだそうですが,近代フランス(いつの時代かはようわからん。作者の同時代なら20世紀前半か)小説の訳語として用いた場合の意味合いはやはり判然とせず,そもそも辞書的な意味からして,具体的にどんな仕事かと言われると,ピンとこないのだった。日常生活ではおそらく一生用いることがないであろう単語の一つ。


読み終えたのはようやくこれで1冊目で,上述の「ジュネ伝」もまだ上巻の半分ぐらい。今週の土曜日が返却期限というのは,ちょっと難しそうです。


ジュネはgenet(2番目のeの上に^)と綴り,エニシダの意味なのだそうです。そんだけ。