突然旅行前に話が遡るが,

本で思い出したので。4月27日の帰りに書店でミラージュの40巻(炎の蜃気楼 40 千億の夜をこえて 桑原水菜 集英社コバルト文庫 ISBN4-08-600412-7)が出ているのを見つけた。買って帰ってモスで読む。おかげで旅行の前日というのに(準備を何一つしていないのに)日付が変わる頃までモスに居ることになったのだけれど。


とうとう本編完結。長かったなぁ。14年の内の10年ばかりをリアルタイムで付き合った。高校生だったわたしも今年で27歳。<邂逅編>がまだ出るのなら(あるはず)それは買うけれど,コバルト文庫を買うのもこれで最後かな,と,そういう感慨もあり。


結局どんな話やってん,と,今更語る必要もないか。人付き合い変わりましたね,わたし。この種の話をする友人もいませんもの。


公の枕詞でよく目にしていたのは「歴史ファンタジー」で「サイキック・アクション」。最もわたくしに縁遠そうなエンタテイメント小説ですね。うーん。惰性とはいえ途中で脱落せずによく保った。


当時のコバルト(文庫はあまり見ていないので主流は雑誌「Cobalt」掲載作品の印象)はファンタジーが中心勢力だったと思う。サイコな力を持っている人も珍しくなかった。コバルト文庫に限らず,講談社X文庫ホワイトハートもファンタジーの作品の方が断然多かったから,きっとそのころの流行だったんだろうけど,わたしは個人的には異世界ファンタジーは得意ではないので(その世界のルールに馴染めなくてなかなか入っていけないのだ),それほど積極的に好きではなかった。それでどちらかというとえんじ色の背表紙の文庫の方をよく読んでいたわけです。今のCobaltはどうなんだろうなあ。秋月こおコバルト文庫で書き下ろし出したときにはびっくりしたけど,それを考えるとあのころが転換期になるのか,それとも,ミラージュが登場した頃既に転換期を迎えていたのか。いずれにしても商業ベースなので,売れるジャンルの小説のラインナップが増えていくのは当然のこと。だから,秋月こおの登場にコバルトがボーイズラブ?! とびっくりする方が,おかしいっちゅぅか。コバルト文庫とて,十代女性エンタテイメント小説界のトップランナーたる自負はありましょうから。そもそもわたしが十代に足を踏み入れたばかりの頃のコバルトの主流は,ファンタジーではなかったんじゃないかと,これは断言できないな。


この話は39巻が出たときにも書きましたね。


いずれにしても「炎の蜃気楼」のシリーズは,確かに男性同性愛めいた部分を含んでおり特に前半はそれが作品の主要なテーマの一つでもあったけれど,伊達や酔狂で40巻続いたのではなく,男同士の恋愛(と言うとちょっと違うのだが)話だけでそんなに間が持つはずもなく,だから,俗に「ボーイズラブ」と呼ばれるジャンルには分類できかねる(もっとはっきりいえばしたくない)な,と思うのですよ。それだけではないというかそれはメインではないというか。


しかし,別の見方をすれば,作中に占める分量の割合こそ少なけれ,同性愛めいた部分こそが作品のメインテーマであり,それ以外はメインテーマのための小道具でしかないとの見方もできる。1冊の内のほんの一節ぐらいしかそれっぽい匂わせが出てこなくても,それでも。しかし後者の見方に立てば,この終わり方はどうにも,まるでドラゴンボールの如き行き詰まりを見せてしまった気がする。終盤はほとんどそんな話はどこかに追いやられていたし,そもそも手の打ちようのないところまで行き着いてしまって,どうせえっちゅぅねん他にどうしようもないやんな。の領域。で,40巻も続くとさすがに読む方もいい加減満腹感を味わっているので,どんな終わり方をしようがそんな終わり方をしようが,あっさりと納得して受け入れるのだった。ある意味テキトーっていうかね。あのテキトーさ加減はやっぱりメインテーマではないだろうなぁ,と言いたいぐらいに。


そんなわけでこの作品を「やおい本」とか「ボーイズラブ」とか呼ぶのには抵抗があるのだが,これまた悔しいことに,年下の主人に年上の従者という腐女子萌え萌え設定の小説としても,あの時代に一般に流通していたエンタテイメント小説の中でそれなりにスタンダードな作品だったのではないかとも,思ったり。わたしは所謂JUNE作品を殆ど知らないので(一昔二昔前の名著となると全くといっていいほど知らない。おそらくは道楽娘さんあたりの方が遙かに詳しいだろう),“他の追随を許さない”とか“他に類を見ない”といったことは書けませんけど。少なくともわたくしの中ではある種スタンダードになってしまった(これだけでげっぷが出るという意味に於いて)。


そうそ,制服フェティッシュな一面も見逃せませんね。伊勢神宮御陵衛士の制服着せるなんて,あなた,マイナっちゅぅかヲタっちゅぅか。


そんなわけで,まとめて古本屋にでも持っていこうかと思わないでもない今日この頃,読んでみたいと仰る酔狂な方がいらっしゃれば耳をそろえてお貸しします。<邂逅編>含めて50冊弱。ただし,熱心なファンではないので,本編以外の細々した物(ハードカバーで出たものとか雑誌掲載に読んだものとか)はほとんど持っておりませんが。