「まひるの月を追いかけて」(恩田陸/文藝春秋)読了。


久しぶりにハードカバーのぴかぴかの本を読んだ。「『黒と茶の幻想』が好き」というわたしに,かおりさんが貸してくださったので有り難く借り受けたもの。


確かに,「黒と茶の幻想」に共通する部分があり,そこはおもしろく読んだ。


作品の舞台が奈良なのだけれど,奈良は殆ど行ったことがないので地理が全然わからない。読んでいても情景が浮かばず,それがややつまらない。実在の場所なので勝手に想像することもなんとなくはばかられ,ビジュアルイメージの無いまま字面を追ってしまうことになった。


奈良,ねぇ。全くイメージがないというよりは,奈良駅(なのかな)前の雰囲気と鹿のイメージだけがあるという感じ。それが,却って彼の地に対する心象を悪くしている(というか狭めているというか)。駅から観光スポットまでが遠くて道がわかりにくくて暑くて歩くのしんどい,と。


できることなら,そのあまりよくないイメージを変えたいものだとは折に触れ思っている。この本を読んだからって凄まじく旅行したくはならなかったけれど,一度のんびりゆっくりと余裕を持って大和の地を旅してみたいものだ。あまり乗り気ではないが一応。


その場所に行きたくなるという点でも「黒と茶の幻想」と似ているな。


月と言えば,今日は満月。輪郭のくっきりした晴れた夜空に浮かんでいる。夜は湿度も低くて涼しい。素足や薄着が肌寒いぐらい。


地球温暖化がどれほどのものか知らないが,7月8月でも夜になるとこれぐらい涼しいのが通常であったのならば,夏の夕涼みというのはなるほど優雅なひとときであっただろう。昼はしっかり日が差して暑かった。だからこそ夜涼しいのが心地良い。春の夜のぼやんとした温かさとは違う匂いがする。


おもしろい小説を読んだ直後は,脳内を言葉が飛び交って大変なことになる。帰り道を歩きながら,立ち止まってしまいたくなる。歩いて家に帰るという行為を放り投げて,その場で脳内を飛び交う言葉に溺れてしまいたい誘惑に,駆られたところでそれを実行しても何にもならないのだが。


アウトプットできないからね,路上では。立ち止まったところで収まりはつかない。


取りあえず満月を見上げて一息吐き,てくてくと家路を往く。家に着く頃には普段通り。(1:29)