遠い日の出来事


職場のパソコンのデスクトップピクチャは,去年モンモランシー滝に行った時に自分で撮った写真をずっと使っている。ピントも合っていないぼけぼけ写真だけど,それでもこれが一番上手く撮れていた部類なので。


カナダ(東部)に行ってからかれこれ1年経つけれど,今振り返ってもほんとうに良いところだったし良い旅だったと思う。入国のときの騒動や,ナイアガラ滝での「置いてけぼり」事件や,ケベックで宿にたどり着いていたら鍵がかかっていて「英語で電話しろって?!」ガクブルとか,一瞬不安になることは多々あったけれど,でもなんか気持ち良かった。ひとり旅で気ままに動けたのも気楽だったし,気温や湿度も過ごしやすかったし,行く先々の街の雰囲気もそこそこにぎやかでそこそこ穏やかで居心地良かった。


落ち着いていないのはわたしで,この写真を撮ったときも,ケベック2泊3日なんだから大人しく市街地を観光していればいいのにわざわざ滝を観に行こうと住宅街を通り抜ける郊外行きのバスに乗って(乗り換えまでして),何もない道ばたのバス停で降りた。滝の上の最寄りバス停とのことだったけれど滝は見えなくて,橋を渡って雑木林に入ってしばらく歩いて最初に視界が開けたのがこの写真を撮った辺り。まだ滝にたどり着く前。目の前のセントローレンス川を挟んで向かいはオルレアン島なる中州の島。曇天で対岸はすこし煙って見えた。バスの本数も少ないから帰りの時間を少し心配しながら,でもなんだかのんびりくつろいだ気分になったのを覚えている。あー,こんな遠くまで来たんだなー,とか,時間があればオルレアン島にも渡ってみたかったなぁ,なんて思いながら,ぼんやり。


そこそこ観光地なので,滝まで出れば人はたくさんいた。滝の下には大きな道路が通っていて,ロープウェー乗り場に付属してお土産物や軽食の売店があり,駐車場には大型のバスも何台か止まっていた。滝の横の階段を歩いて降りて川を渡り,(売店の公衆電話で必死こいてモントリオールに電話した後)ロープウェーでまた上まで登って同じバス停から帰った。むちゃむちゃバス待ち長くて,街に戻ったときには暗くなっていた。


たまにデスクトップにとっちらかしている窓を片づけてこの写真が出てくると,「こんな遠いところに自分で行ってきたんだなあ」としみじみ不思議な気持ちになる。カナダでさえおいそれといける国じゃない。仮にケベックまでは行ったとしてもこの場所には二度と行くことはないかもしれない。絵はがきになっているような場所でもない。この光景が残っているのが自分が撮ってきたピンぼけ写真1枚だけかと思うと,どんなピンぼけでも貴重な写真に思えてくる。


あー,でも,カナダにはいつかもう一度行きたい。碁盤の目のトロントも,モントリオールの港ののんびりした雰囲気やサンキャサリンのゆるやかな坂道も,ケベックのこぢんまりとした古都の風情も,ひたすら続くコーンフィールドも,飛行機の窓から見た五大湖も。紅く染まりかけたメイプルリーフも。それから,呆れながらも面倒見てくれた友人にも。もう一度会いたい。