恩田陸「夏の名残の薔薇」


「ユージニア」は昨晩(今日未明)で読み終えて,今朝から「夏の名残の薔薇」に取りかかる。連日の気温乱高下にやる気が出ず,また,このところは目先の仕事にややゆとりができていることから(先が見えていない/先の準備ができていない),7時前に会社を出て帰宅。さいきん早く帰るのもあまり珍しくない。なんか落ち着かないけど(ワーホリ)。


家に帰ったらまだテレビで野球をやっていた。そういえば今日が神宮開幕だったのだろうか。小雨模様が降ったり止んだりしている上に今日は吐く息が白い寒さだったから,ふらっと思い立って神宮に行くのは無理だった。しかし午後7時過ぎに自宅最寄り駅に着いて「あれもしかして神宮では?」と気づいたときには,どうせならそのつもりで準備をしてもう少し早くに会社を出て神宮開幕に行けば良かったと思ったものだった。


本当に神宮開幕だったかどうかは知らない。それに,今日もまた負けたようだ(開幕から4連敗,チーム打率が2割を切っているとか)。今年はあまり(まだ,かもしれないし,もう,かもしれない)野球に興味が湧かない。どのカードもいまひとつと思いながらテレビのチャンネルを切り替えていると,ソフトバンクホークスの黒いビジターユニフォームを着た多村がバッターボックスに立っていた。彼は目下パ・リーグ打点1位のようだ。その回のソフトバンクの攻撃だけをなんとなく見た後(小久保の2ランで1点差まで追い上げた),テレビを切って夕食に集中した。うーん。待っていれば9回表には小野寺が出たんだろうに(主に顔が好き)。広島−横浜戦では寺原が今季初勝利の由。選手が入れ替わっていてついていけない。オフもキャンプもオープン戦も,ずっと放置していたので。


というわけで「夏の名残の薔薇」も読了。読んだ感じはちょっと「木曜組曲」にも通じるものがある。こういうのを「クローズド・サークル」というらしい(よく分かっていない)。


本格ミステリ・マスターズ」(どうやら文芸春秋社のシリーズらしい)を冠した,単行本サイズだけどソフトカバーの本で,その前に読んだ「ユージニア」と比べて,ちゃんと謎解きがなされていた。


謎が解かれていると安心だし,そのまま放り出されるともやもやっとした読後感になる。物語中の伏線は回収されたいものだ。だからこそエヴァエヴァになったんだろうが。


しかし「ユージニア」も(読後の不可解さはさておき)面白かった。こういうのを「藪の中」というらしい(よく分かっていない)。


「ユージニア」は作品に対する謎解きが気になる小説で(作中で謎解きがじゅうぶんに為されていないため),読後見知らぬ人のブログなどをいくつか読んで回った。そこで初めて,文字組がゆがんでいることを知り,手元の本をよくよく確認したら,確かにちょっと(かなり)ゆがんでいた。


読んでいる最中に全く気づかなかったのがショック。ぱっと見てもどこがおかしいのかわからなくて,紙が薄いので裏のページと透かしてみてようやくわかった。人間の目って,ちょっとした不具合は自動修正されるようにできていると思うの。たとえば「書きなきい」って書いてあっても,なかなか気づかないでしょ(気づくか)。


もう一つ挙げれば,フォントも少し変わっている。読点がやたらと大きくて寝かせてある。


それ以外にも装幀がかなり凝っているようだが(でも値段は「夏の名残の薔薇」の方が高い),図書館の蔵書ゆえ,びったりとビニルシートで覆われていて,カバーまわりは確認できない。


「ユージニア」は「月の裏側」などと同じ土地モノ。冒頭で夏の暑さ,海の近さ,雪はそんなに多くない,駅と繁華街が離れている古い町などが語られ,どこだろうと興味を引きつつ話に入っていく。


といっても「月の裏側」ほどには土地(地形)は重要な役割を果たしてはいなくて,様々な人物が入れ替わり立ち替わりしながら過去の事件について語り進めていくところがメインだろう(叙述トリックではないかとすぐに指摘するかなまるはさすが国産ミステリ・ジャンルに造詣が深い)。語り手によって変わる事件像,人物像。人々の中に少しずつある嘘や悪意が少しずつ明るみに出て,次第に事件の全容が明らかになり謎がとけていく。


と見せかけて最後は放り出されるんですが。まさに<藪の中>。


それに比べると「夏の名残の薔薇」はやはり安心で,山の上の老舗のホテル・外は悪天候,とおあつらえ向きの舞台に曰くありげな人々が集い,富豪の一族の過去の秘密がどうじゃらなんじゃらと「上流階級の人たちの腹黒さ」を渦巻かせたわかりやすい世界を展開している。


こちらも,一人称・三人称交えて視点がさまざまな人物の間を渡り歩く。こういうのを「三人称多視点」というらしい(よく分かっていない)。相変わらず出てくる人物が誰も彼も冷めた目で人や場や世の中を眺めていて,それらぞっとする恐怖を感じさせている(ミステリじゃなくホラー?)


とはいえ,そうとうな分量で引用されているフランス映画部分をすっとばかして読んでいたら見た目の分厚さほどの分量もないし,安心して楽しめるミステリ・パッケージ仕立てになっている。


もっとも,電車の中やら休み時間やらの隙間にちょろちょろ読み進めたので,どうしても読み方が浅くなっている部分はある(フランス映画の引用をすっとばかしたり)。腰を落ち着けて読んだ方がよいかもしれないけれど,ちゃんと娯楽小説なので,がんばらなくても楽しい。叙述トリックに最初はびっくり。テーマは「記憶」,というか,人々の真実って何? とか,結局,本人は事実と思っていることであってもそれはその人の脳が処理して受け止めたことであって,それが他の人が受け止めていることと同じとは限らないわけで,何が本当のことかなんてわからないし,本当のことなんてないのかもしれないし(ということでこれも「藪の中」なの?)なんだろうけど。田所さんの夢の謎はそういえば解明されていない。