京都で買った



開封するまでに4日かかった。紙ジャケ仕様でなくてもよかったんだが,会場のブースにはこれしかなかった。当たり前か。


紙ジャケが出たのは今年だけれど,物自体は1991年の2月にリリースされた5枚目のオリジナルアルバム。


世の中のCDセールスは落ち込んでいるようだけど,買う側(聞く側)にとってはそれがいつ世の中に出された物であっても自分が最初に聴くときが自分にとっての新譜なので,絶版にならない限り無尽蔵に母体数(選択肢数)が増え続けている現状では押し並べた1枚あたりの売り上げ枚数が減るのも仕方あるまい。それは書籍にも同じことがいえ,まして,音楽は推理小説と違って一度聴いたらおしまいではなく,むしろ気に入りの曲を何度も繰り返し聴く傾向にあるだろうから,なおのこと,気に入るかどうかわからない新しい作品を敢えて求める必要性は低くなる。


例えばこのアルバムを入れた段階で iPod Shuffleの中がちょうど70曲になった。すでに1周するのに何日かかかるようになっているが,それでも15枚出ているオリジナルアルバムのうちの5枚と2枚組のベスト盤しか持っていないので半分にも満たない。それでも新譜を楽しみにするのがファンという人種だろうけど,ただ聴くだけなら既存の曲だけで数はそれなりに揃っている。


このアルバムの収録曲には今もライブでよく演奏される曲も多く,某所で新規さんへのお薦めアルバムが取りざたされる際にも必ず名前が挙がる。発売から17年近く経った今聴いても,いまだに評価が高い理由が単に当時知名度(人気)があってセールスも良かったからというだけではないとは思える。事実,その当時とやらを知らない自分がかれこれ1年近く迷った挙げ句に買った,これまででは唯一の過去リリースオリジナルアルバムだし。購入に至った原因は今回のツアーの本編でこのアルバムに収録されている「MACHINE」と「MY FUNNY VALENTINE」を演奏しているために(ましんは全然アレンジ違うけど)だんだん洗脳されてきたからではあるものの,地味に8曲目の「Brain,Whisper,Head,Hate is noise」が気に入ったからでもある。


全体的にどの曲もメロディアスでわかりやすいし,アレンジやら構成やらも良い意味で普通でバランスがいい。派手な外観と下手な演奏がどうしようもなくキャッチーだった一色物バンドがデビュー数年を経て質的な向上を果たした結果の完成度の高い作品ではありましょうと。


調べたわけではないけれど,どんなバンドでも5年目ごろとか5作目ごろって,分岐点かもしれない。ばんばん曲つくって右肩上がりであれこれやって,だいたい5枚目ぐらいである程度の到達点に達しちゃうんではないかと。同じ路線で引っ張る場合には5枚もアルバムつくれば一通り出尽くしちゃうだろうし。5年ぐらいで解散するバンドって多かったような,そうでもないか。その先を偉大なるマンネリズムに向けてマイナバージョンアップをはかるもよし,ここのバンドみたいにマイナを極めるべく都度てんでばらばらの方向性を志すもよし。


とはいえ,(これ以降の作品がこのアルバムを超えていないというような意味は全くないが),あれこれ考えたり狙ったりはかったりどうしたりこうしたりなく,ただシンプルに素敵なメロディーという意味では,このへんまでの初期作品は単純にいい曲が多いよなーとは思うんだ。でも惜しむらくはこれよりも前の極初期作品は演奏も下手だし音も薄い。20代初めの若さ故の勢いってのは不可逆で,それはそれで魅力的ではあるんだけれども,音源としてはいささか辛いと。再録してほしい作品はたくさんある。


まあそんなこんなで,このアルバムは演奏のアラやら音の薄さも解消されてちょうどいい位置にあると思う。もっとも,音楽性やらバンドの路線という点ではちょっと違う位置づけになるようだけども。それまでの集大成ではなく,次の段階に進んだ(方向性を決めた)一作という扱いなんかな。歌詞に散りばめられたカフカカミュっぽさのわりに曲はポップでメロディアスといったあたりは,確かに,後の所謂びずある系の基本路線かもね。


しかし影響を受けた(かもしれない)有象無象のびずある系の後輩達をほっといて,本人達はジャジーなアルバムをつくって棒立ち(のれない)ライブを行い,朗読入り中二病アルバムをつくってアンコール無しライブを行い,そうかと思えば突然コスプレ兄弟が出てくるクスリ用語満載阿呆ポップ路線に走り,バンドなのに生音皆無なデジモノ打ち込み路線に走りとやりたい放題。ゴスアルバムつくったのは実は14作目,みたいな。


そんな歴史を一気に堪能できる紙ジャケ再発シリーズです,と強引にまとめてみるテスト。紙ジャケといってもジャケ自体がぺこぺこのプラケースに入っているので,頻繁に出し入れしない限りはそんなに痛みは気にしなくても良さそう。通常のプラケースはCDが割れるんじゃないかと思うぐらい爪が硬いことが多いので,取り出しやすくて助かった。ちょっぴり薄いのもいい。どうせ一度リッピングしてしまえば一緒だし……そういえばまだ一度もコンポ+スピーカで聴いていない。この週末にでも。