十二月大歌舞伎@歌舞伎座


■鎌倉三代記 絹川村閑居の場


佐々木高綱がどうとかってつい最近どこかで見たような。例によって江戸初期の大坂の陣の題材を鎌倉時代にうつした時代物の義太夫狂言で,鎌倉方の北条時政の娘(時姫)が親のすすめる政略結婚を嫌って敵である京方の三浦之助のところに押しかけ女房して姑の世話なんかをしてるところに,ダーリン(三浦之助)が石山だか近江だかの合戦で深手を負って今生の最期に一目ママンに会いたいと家に立ち寄る。京方はだいぶ分が悪くなっていて敗戦目前,当然時政パパは娘を取りかえしたがっている,でも時姫はダーリンらぶらぶ。そのくせダーリンはママのことばかりで嫁さんには目もくれない。まあそんな場面ですが。


事前に話の筋を知らずに臨んだのが幸い,場面が変わる度に胡散臭い登場人物がどんどこ現れるし,ストーリーも意外な展開を見せるしで,とってもミステリーで面白かった。


これに出てくる時姫は,歌舞伎の三大お姫様の一人なのだそうだ。まだ若いんだろうけど,意志がはっきりしていて積極果敢な行動派で,大変ヨロシイ。いいとこじょんなのに田舎のぼろ屋でかいがいしくお姑さんの世話をしているあたり(お姫様の装束でそれをやるからちょっと可笑しい)も,深手を負った旦那が厭がっている(相手にしていない)にもかかわらずしつこくえちーしようと振袖の袂ひらひらさせてアピールしまくっているところも結構。向こう見ずというか。でもお馬鹿じゃないみたいで,いろいろ辛い立場にありながら,お父さん殺そうって決まったところで,その先がどうなったのかわかんないまま終わるわけですけども。


ダーリンの橋之助が二枚目だった。


信濃路紅葉鬼揃


どうみても能でした。お面がないだけ。能舞台を模した奥に松の絵が描いてあるセットで,奥に歌&楽器隊がずらり。能装束のおねえさんたちが6人ぞろぞろ。平維盛と従者2名がこれまたご大層な装束でぞろぞろ。従者即退出(早)。維盛はおねーさんがたに勧められるままに酒をしこたま飲んで,おねーさんがたのまったりした踊りを見ている内にうとうとぐーすか。山神が起こしに来て踊る。踊っても騒いでも起きないので山神諦めて帰る。帰った直後に維盛目が覚める。一天俄に掻き曇り。ねーさんたちが鬼の本性を現して藍隈がっつり髪の毛もっさりで再登場。維盛戦う。以上。というのを1時間ぐらいかけてまったりまったり。


これが昼ご飯後の狂言なのでどきどきしていたけど,意外とだいじょうぶだった。踊りはまったりな上に席が悪くてあまりよく見えなかったんだけど,鼓と三味線の音楽がなかなか素敵。


歌舞伎十八番の「紅葉狩」のほうをパリ・オペラ座公演の放送で見ていたので筋は分かっていたし,演出の違いなんぞを気にしつつ見るのもおもしろかった。まあお上品としか言いようがないっちゃあそうなんだけども。イヤホンガイドで解説聴かなきゃなんのことだかわからんし,そのイヤホンガイドさえもお能テクニカルターム満載であまりついていけませんでしたが。


海老蔵はまあなんだかんだあるんかしらんが,白塗りの顔を見る分には鼻筋がすっと通ったいい男。


■水天宮利生深川 筆屋幸兵衛


今年の締めとして最後に見る歌舞伎としてはあまりにびんぼくさいという評を事前に読んである程度覚悟はしていたが,まさかこれほど「貧乏辛い話」とは。客席から時折洟をすする音が聞こえてきたのはおそらく,あまりの不憫さに泣いていたんだろう。


とまあ,こちらはこちらで現代物のごく普通のお芝居。現代つっても明治初期ではあるんだけど,舞台のセットや着ている物や鬘なんかも暗黙の了解らしきものはなさそうなごく自然な感じだしせりふも分かりやすい。元士族が没落して超ぼろ屋の長屋住まいをしながら細々と筆を売って糊口をしのいでいたんだけど,奥さんが3人目を産んだあと産後の肥立ちが悪くて亡くなって,目の見えない姉娘とわずか10歳の妹娘と産まれたばかりの長男をかかえて長男の乳貰うのに歩き回ってりゃ筆売りもままならない。袖振り合うも多生の縁な人の恩を受けたと思えば悪人の取り立て屋にせんべい布団まで持って行かれて,外には雪も積もっているというのにふとんもなくて冬が越せるかわからない,これはもう一家心中するしかあるまい,という年末に見るにはあまりに辛くわびしいシチュエーション。


勘三郎うまいね愛敬あるねと現代劇の気分で観賞。しかし,抵当に入ってるからって売っても二束三文にもなりゃしなそうなせんべい布団やら鍋釜やらもっていく借金取りの人非人さもひどけりゃ,床がささくれ立って障子はぼろぼろで壁土もはがれ落ちてる長屋もひどいし,娘達の着た切り雀な薄汚れた着物もひどい。絵面としてはたいそう暗いお芝居でございました。さいごはどうにか救いのある終わり方で良かった。


清元の三味線弾きの一人がまだ若くて(三十代後半か四十代前半),おや,と思った次第。