腐ってないカレシにBL世界を軽く紹介するための10本[れびゅう1]

富士見二丁目交響楽団シリーズ/秋月こお角川ルビー文庫


小説 一人称/受視点 難易度:★★★


年下攻。攻が自信家の御曹司で能動的,受(元ノンケ)が内向的な性格で家庭的な庶民育ち,ご都合主義な性描写と恋愛成就までの過程,エロ描写が多くて過激,等々,女子による女子のための男性同性愛作品のテンプレ。それでいてそれ以前の業界の主流であった(と思われる)「JUNE」的耽美さとも違う路線で,これぞまさにBLの王道と,ほかのBLあんまり知らないけど言ってみるテスト。


2008年8月時点で,カバー見返しで数えたところ既刊35冊以下続刊。8月の新刊で書店に並んでいる最新刊が第6部の外伝だそうで,かなりの長寿シリーズ。


お話の骨子は,バイオリニストになる夢を捨てきれない自称凡才の主人公(受)と,自称天才指揮者の攻が,衝突し・葛藤しながらもお互いを研鑽して音楽家としての階段を上っていく成長物語。成功譚,個性的な脇キャラ達,1対1の絶対的な恋愛感情,バリエーション豊富なエロ,と,思春期の女子がはまる要素は一通り詰まっている。


特に主人公の守村さんは,或る意味女子が憧れる理想の男性像と女子が憧れる理想の女子像を兼ね備えた人物として描かれているように思う。優しくて家事が得意で一見穏やかなんだけど内に秘めているものは熱くて頑固で(つまり男らしい面もあって)努力家でおまけにスリムで高身長(175cm)でそこそこ美形でメガネ。って,そんなの現実にいねぇよ。ついでに言えば恋人に対してとことん一途。読者は,時に受け身の立場として感情移入もできるし,時に異性であることから自分とは突き放して見ることもできる。一女子として一男性キャラを好きになる楽しみ方もできる。


逆に男性視点で見れば「ねぇよ」としか言いようがないんじゃないかと。少なくとも,いきなり勘違いで強姦された相手とさほど時をおかずにひっついちゃうノンケ男性なんて,男性視点じゃなくても,絶対ないと思う(この辺がご都合主義)。でも,そういう障碍があっても結ばれちゃうぐらいに相手のことを好きだとか,信頼とか,愛だとか,その辺がこの作品の根底に流れるドリームとして大切だったんだろうね。


ちなみに,自分は第4部に入るところでフェイドアウトしてそれきりなので,今,話の展開がどうなっているかは知らない。続きは気になるのでそろそろ大人買いしてもいいんだけど,しかしこの歳になるとちょっとエロにおなかいっぱいかもしれん。フェイドアウトのきっかけはイラストレータの交代。よくある話ですが。


秋月こおのBL小説は,文庫で出ているものはほぼコンプリートするぐらいの勢いで講読していたので,フジミ以外にも色々あるんだけど,代表作だと思うのでやはりこれ。ああでも,どっかからでた吸血鬼ホストが出てくる話が目から鱗だったんだよな。レーベルさえも忘れてしまった。