腐ってないカレシにBL世界を軽く紹介するための10本[れびゅう2]
炎の蜃気楼(シリーズ)/桑原水菜/集英社コバルト文庫
小説 三人称/主人公は受/視点は色々 難易度:★
主従モノ。主で年下(高校生)で受で,従が年上(28歳だっけ)で攻の下剋上。そしてやっぱり攻は金持ちで強引。スーツ萌。
恋愛といえば恋愛と言えないこともないんだけど,ひたすら精神世界における両者の葛藤やら拘泥やらのみをぎりぎりと堅い筆致で描いていて,甘っちょろいエロパートはほとんどない。そもそも,恋愛というか,そういった人間関係(情愛)部分の描写が作品にしめる割合自体かなり低いので,BL目的で買うにはちょっとハードルが高い作品。でも,主従モノを語る上では外せない。
お話の骨子は,一言で言ってしまえば「転生モノ」。戦国時代の怨霊が跋扈する現代世界,という設定で,そこに戦国武将の生まれ変わり(厳密には違うけど)である主人公達が怨霊退治をしながら全国どさ周り。ある種歴史ファンタジーのサイキックアクション。ラスボスは織田信長(の霊)。
攻と受は今は味方同士(従と主)なんだけど初生では敵同士で,おまけに攻は,作中でモーツァルトに対するサリエリに喩えられるように,主人公(主)に対して屈折した感情を持っている。その屈折した感情の描写が,第三者(読者)からすればもうそんなのどうでもいいでしょいい加減にしなさいよって言いたいぐらい,これでもかこれでもかと何巻も何巻も続く。
でも,その泥沼のただの執着でしかない愛憎が,(描写のしつこさに辟易しながらも)1人の相手だけを100%想っているという点において,BL的萌え要素になる,と。一方で,攻は現実世界では不良高校生(受)の保護者的オトナな面を見せて受を甘やかしたりもするので,そこにも(年上男性スーツ萌という意味で)ぐっとくる。
そして物語の後半に入ると,主(受)側も攻との関係を云々と思い煩いだして,今度は2人分のそれぞれの葛藤やら執着(?)やら自己否定やら自己肯定やらが延々と続く。素直になれ,とその一言で済むと思うんだけど,どこまでもそれじゃ済まないらしい2人。もう好きにしてくれ。
本編は既に完結。既刊は本編が1−40,ほかに番外編・外伝等諸々。この作品こそ,自分の周りでは11巻あたりでイラストレータがかわった時点で脱落した人間が多い。ストーリー展開も終盤はかなりアレだったけど,惰性の後押しで最後まで読み通した。現在雑誌「Cobalt」に掲載されている「邂逅編」が,登場人物達が内面にそれぞれもやもやとしたものを抱えながらも怨霊退治をしてまわる内にチームとしてまとまりつつあるほのぼのほんわかストーリー仕立てになっていてかなり癒される。