腐ってないカレシにBL世界を軽く紹介するための10本[れびゅう6]


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本気で欲しけりゃモノにしろ!/深沢梨絵/講談社X文庫ホワイトハート


小説 一人称/受視点 難易度:★


本編5冊と番外編1冊のシリーズ。これも高校時代の同級生(でも学生時代の交流は皆無)が20代半ばになって卒業以来数年ぶりで偶然再会を果たし,二人して業務上のトラブルに巻き込まれてそれを解決しつつお互いへの理解を深めつつ,でも恋愛はなかなか進展しないという筋立て。「晴れ、のち雷」とめちゃ被ってしまったので,10選のセレクトとしてはちょっと失敗。テイストは違うし細部も違うけど。


受は東京の大手私大を出て広告代理店勤務の新米コピーライター,攻は高校を出たのち専門学校→留学帰りのフリーランスのカメラマン。受が学部卒の新入社員という設定なので共に20代前半。舞台は広告制作現場(マスコミ+カタカナ商売)。


攻はどちらかというと自信家で強引で押しの強いタイプ,背が高くて脚が長くて男らしいハンサム。受はお人好しで周りに振り回されるタイプで,童顔で女顔なのを気にしている。(人物造形も被っている)。ただ,攻は実は高校時代から受のことが好きで,でも(もちろん)本人には伝えられなくてずっと胸に秘めていたという裏設定あり。


受は攻の気持ちに気づいているんだかいないんだか,というじれっとした展開なれど,しかし受は受で,高校時代はあまりいい印象を抱いていなかった攻が実は良いヤツだったと分かって,せっかく友達になれたんだからこのまま「良い友人」のままでいたいという気持ちから,攻の気持ちに気づかないように目をつぶっているわけですね。友情と恋愛の狭間で揺れ動く男心が萌えどころです。


この作品でもう一つ特筆すべきはBLらしからぬ女性の地位。主人公カプのほんのりとした恋愛(?)の進展がシリーズ全体を通したテーマとして流れている一方,シリーズ各話を見ると,各話の主役級の女性達の恋愛や生き方に焦点が当たっている。全寮制男子校的作品世界に陥りがちなBL界で当て馬ではない女性キャラがしっかり描かれているのはちょっと珍しい。


この先は想像でしかないけれど,読者(女性)自身の恋愛や生き方に繋がる内容に踏み込んでいるあたりは,ホワイトハートらしさを感じる。ホワイトハートの恋愛部門(ホワイトハートはファンタジー部門と恋愛部門との2本立てのレーベル)は当初はティーンズハートのお姉さん版の位置づけを狙っていたんだと思うの。この本が出たのはホワイトハートがBLを扱いはじめたハシリぐらいの時期なので,編集方針が見え隠れするようなしないような。


いずれにしても,男だけで完結しないところがフィクションの作品世界としても自然な感じがして良かった。20代前後の若者が,男も女も皆,それぞれに悩みながら少しずつ精神的に成長していく様子が描かれていて,その一環に主人公達のあれやこれやがある,というスタンス。


余談になるけれど,同作者のこの次に出たシリーズが,メジャーデビューしたばかりのインディーズ上がりのビジュアル系バンドのヴォーカルとそれを担当することになったレコード会社の制作ディレクタ(妻帯者)とのどうのこうのというかなりシュミに走っててツボにはまった楽しいシリーズだった。