腐ってないカレシにBL世界を軽く紹介するための10本[れびゅう9]


リストはid:cana:20080811#p1

ぼくはこのまま帰らない/内田一奈/宙出版ミッシィコミックス


漫画 難易度:★★★


高校生,不良生徒×優等生(リバ),三角関係,当て馬の女性


全6巻(完結)。作者は今は「内田一菜」なんだけど,初版表記で(特に理由はなくてうっかりしてただけですごめんなさい)。


BL作品,とくにA5判の世界はほとんど知らないわたしにとって,この作品は,典型的なBL漫画ってこんなのだろうと勝手に想像しているところのぼんやりしたなにかが具現化された「ザ・BL漫画」。なので,BLの深部を覗いてみたいという向きには,世の中にはもっとディープな作品も存在するだろうけれど,自分の知っている範囲でこちらをオススメする。難易度が★3つなのは,エロ描写の難易度なので,それなりの覚悟でもって向き合っていただきたい。


あらすじは,えーと,リバなんで攻受表記が使えず困ってるんですが(リバの意味が分からない人は辞書を引こう,もとい,ぐーぐる先生にでも訊ねてみてください),かなり要約してしまうと,恵まれない家庭環境(片親とか母親の再婚とか)の影響もあって非行に走っていた少年を,平凡な幸福の中にある学級委員長が見捨てられなくて,体を張って更正させようとする話。非行少年は盛り場に出没して男相手に売春してたり,クスリ盛られたり。一方学級委員長には彼女ができて,女子を交えた泥沼の三角関係になる。また,話が進んでいくにつれ,非行グループの別のクラスメイト(男)が首を突っ込んできて,学級委員長をつまみ食いした挙げ句横恋慕して,男同士の三角関係らしきものにも発展する。高校生の恋愛模様,思春期の親子関係の悩みとその克服,(精神的な)自立,テーマはおおむねそんな感じ。切なさ満点。舞台は大阪,セリフはほぼ関西弁。


掲載誌が老舗のBL漫画雑誌ということもあってか,何かというとすぐいちゃこらしている。若い男子だからと言ってしまえばそれまでだが,セックスシーンの頻度が高く,描写に割いているページ数も少なくない。家に行けばすぐ制服(ちなみにブレザー)を脱ぐような,付き合ってるって言ったってキミらそれしかしてないだろ,って状態で,しかもしょっちゅう。そりゃあ学級委員長の親御さんも,悪い生徒と付き合っている息子のことを案じるさ。わたしが親でも心配する。


絵柄については,けして正確とは言えないんだけど,なんとなく雰囲気で押してしまうタイプ。デコラティブな耽美方向のテイストではなく,シンプルな線の入れ方で,現代の高校生をあつかった少女漫画らしいといえばらしい。キャラクタの顔は魅力的。そして,書店の平積みが目に入ってくる範囲での感触では,この手の絵柄はBLに多いイメージもある。


制服属性の方はブレザーに萌えてください。あとはリバ。リバは個人の嗜好がきっぱり分かれるところかと思う。リバにももっともらしい理由付けのされたリバとなんとなくなリバがあるが,そのへん話し出すと長いのでここでは深入りしない。ただ,振り返ってみて,自分がひところ狂信的リバ原理主義だった背景にはこの作品があるかもしれないとは思った。


内田一奈はもともとは「ナーシサス・ブラック」という死神さんが活躍するシリーズ(恋愛物ではない人情物語)が好きで集めてて,勢いで名前買いしたのがこの作品。本人がコミックスの端物ページで語っているところによると,どちらの作品も国外で翻訳出版されていて,ナーシサス・ブラックは18禁ではないが「ぼくはこのまま帰らない」は18禁になっているそうな。さもありなん。


こんだけ描いててOKなラインなら,どこからNGになるんだろう。どこまでリアルでなければモザイクがいらない(という言い方は変だけど)のか,ひょっとして実写でなければなんでもいいのか。印刷・出版はOKとしても18禁(は言い過ぎにしても15禁)じゃないのか。何故この本(性描写以外にも,未成年の飲酒喫煙売春ドラッグ暴力etc)がビニールもかからず購入時の年齢確認もなしに売られているのか,女性向け漫画のフリーダムさはまれに理解に苦しむ。18歳未満で読んだ一読者としては18禁なんてとんでもない,ですけどね。