9回表裏のカタルシス
今日も神宮球場にヤクルト-阪神戦を観に行った。1-3で迎えた9回表。対阪神戦で2点差ならばその時点で実質試合終了の気配が濃厚に漂っているのに,2イニング目に入った押本が捕まり,替わったバーネットが火に油を注ぎ,川端のエラーもありで,阪神一挙5得点で1-8に。9回表だけで40分ぐらいかかった。
その間にユニバの結果を首を長くして待って出てきた帳票を見てあーだこーだ検証して,決着したも同然の展開で21時半を回っているのに席を立てない自分の性格について見解を述べてと,すっかり試合後の茶飲み話モード。自席周辺のまったりエリアは帰途についてしまった客も多く,残っている客も半ば惰性のお付き合いといっただるだるムード。
そんなにがんばらなくても勝てるだろうに手を抜かない阪神偉いねー,これだけ点差あったら藤川投げないねー,なんて言いながら9回裏を迎えた。野球は9回裏ツーアウトからだよと笑いながら言ってはみても実際にはあっさり終わるだろうと思っていた。幾ら昼間に阪神のホームスタジアムでもある西の方の球場でアマチュアがドラマティックな試合を繰り広げているとはいっても,こちらはプロ野球の試合なので。そして,決定力不足が深刻な昨今のスワローズ打線なので。
エンドレス夏祭りの途中にトランペットの音が消える体験は,通常のシーズンでも珍しい。まして,3時間30分ルールを敷いている今季ではかなり稀少な機会。
バネが大崩れして点差が開いたからそれまで肩作って準備してた藤川じゃなくて福原が出てきた。福原が出てきたからセルの2ランが出たし,したら藤川があわててブルペンで投球練習を再開した。交替した藤川の球は素人目にも次元が違っていて,「追いつかない程度の反撃の機会と短い夢の時間をありがとう」と思った。ライトスタンドは「もしかして,行けるんじゃね?」ムードでボルテージが上がっていたけれど,冷静に考えればまだ5点差があり,それは簡単に埋められるものとは思えなかった。
もともと,ちょっと変な試合だった。ヤクルトの守備が拙いのか阪神のヒットコースが巧いのか,はたまた偶然の幸運なのか,阪神の内野ゴロが軒並み内野安打になり,長打を打てば一つ先の塁を狙ってセーフになる。内外野のど真ん中にぽてんヒットが落ちる。しかし阪神もそうやって出塁する割には得点は伸びず,と,なんだかすっきりしないもやもやした展開だった。ヤクルトは例によって散発安打のみで繋げないしチャンスを活かせない。
そのじわじわきていた変な感じが9回の表裏で爆発した。福原火だるまさんのあと藤川にかわってよすよすだったはずなのに,柴田落球(しかもマートンのフォローの位置も不運),藤川暴投,新井お手玉。藤川も制球に苦しんでいるようでボール先行の投球。ヤクルトは何もしてないのに,あれよあれよという間に4点追加されて7-8になった。1点差2死2塁。
ヒット1本で同点の場面,22時を過ぎて鳴り物NGになったライトスタンドは,レフトスタンドの阪神ファンの「あと1球」コールにかぶせるように,声をからして肉声で応援歌を歌い武内コールを続けた。
2点差のまま9回裏の頭から予定通り藤川だったら,藤川も守備もそこまで乱れなかっただろう。そういう意味ではマモノと結託していたのはバーネットだったわけだけれど。
ヤクルトファンの願いも空しく武内は空振り三振に倒れ,場内は一瞬ぽかんとなった。ヤクルトファンの苦笑混じりの落胆の声と,阪神ファンの爆発しきれない安堵の溜息に満ちた喜び方で,不思議な間ができた。
試合後は,敗戦だけど,とても愉快な気持ちだった。横隔膜がひくひくするぐらい,腹の底から笑ってしまうぐらい。
なんだったんだろう。みんな楽しい。阪神ファンはそりゃもやもやしたかもしれないけれど,結局勝って首位とのゲーム差を4にまで縮めているので怒ってたり不機嫌だったりはしない。ヤクルトファンはヤクルトファンで,9回表で負けたつもりになっていたうえにそれまで全然点が入ってなかった試合だったのが最後にばたばた点が入って,チャンテもたくさんやれて傘も触れて,最後まで残っていた甲斐があったとどことなくさっぱり満足げ。
日が暮れる前に川島亮が投げていたのと同じ試合の結末とはとても思えない4時間10分を越す馬鹿試合。楽しかった。
昼間にちらっと高校野球の試合を見て,白樺学園対智弁和歌山のジェットコースター展開に頭も心も着いていけずに「甲子園にはマモノがいる」「高校野球は何が起きるか分からない」と思ったのは,高校野球の世界だけのことのつもりだった。マモノさん500kmぐらい離れた神宮にダッシュで移動ありがとうございますです。
そうは言っても川島は2回で降板して日曜の先発の目処は立たないし直接対決で負けて2位以下との差はみるみる詰まってきてるし,けっこうピンチなのですが。8月は毎年苦しんでる。なんとか5割程度で持ちこたえてほしい。