切れそうな糸を(はしごのその2


さて神宮。先発小川泰弘。故障から復帰してからの彼の登板試合はここまで4試合すべて神宮で,それをぜんぶ観に行った。しかも4試合中3試合は内野A指定席。チケット代だけで9600円(ファンクラブ割引)。外野自由席の隅っこ(ポールより内野側)が定位置だったはずなのに,ちょっとどうかしている。まるで熱心なファンみたいじゃないか。


内野席,これがなかなかどうして,座ると癖になる。浅学にしてコースや球種はわからないなりにも,内野は近くでいろんなことが起きるので面白い(内野守備や走塁,ベンチ前のわちゃわちゃ)。外野は油断するとすぐに「遠くで何かやってるなあ」になってしまう。


それを飲み食いしながらだらっと見るのもプロ野球観戦の醍醐味だけれども,野球そのものは近いほうが見やすい。去年から新しくなったファンクラブのチケット割引&ポイントシステムにも後押しされて,とくに今季は見境なく内野に座っている。懐具合的にどうかと思うが,今のところ「今年は出遅れて観戦試合数が少ない」を言い訳にしている。


そんなこんなで,カップルに囲まれての内野観戦。小川は初回先頭の大島にヒットを打たれ,2回には森野にソロホームランを浴びるなど,不安な立ち上がり。ここまでテンプレ。でも3・4回はすごくよかった。その後も単打はぱかぱか打たれたし,一度は2死満塁のピンチも招いた。よくはなかったみたいだけれど,よくないなりに「要所をおさえ」た。7回1失点,3点リードで降板。三振とフライが多くて内野の守備機会の少ないこと。


打線は4回まで毎回のえんとつ立て。小川降板後の8回に浅尾から2HRで3点を追加。小川のあとを受けた秋吉,江村もちゃちゃっと抑えての快勝だった。


今年ここまで観戦したヤクルト戦のなかで一番楽しい試合だった。短くない試合だったけれどヒットが多く小刻みに点が入るからたいくつすることがなくて,あっという間に過ぎていった。


わたしはけして大の小川ファンではない。応援している以上は,勝ち試合を見たい。だからどうせ行くなら勝率のいい投手が投げる時に見に行きたいし,チームを勝たせてくれる投手にはいい印象を持つ。


要はそれだけのことだった。だから,去年に比べると物足りない活躍(というか長期離脱というか)に留まっている今年は,極端に肩入れする理由もない。球速がすばらしく速いわけでもないから,打たれるときはぱかーんと打たれる。即戦力で1年目に活躍した先発投手に思い入れを強くしすぎると,いずれ哀しいことになるんじゃないかという不安もある。現マネージャみたいに。哀しいことにならなければならないなりに,今のNPBの風潮なら,あっという間に海を渡っていなくなってしまうかもしれない。さっさと催眠から抜け出したほうが将来辛くない。


だけど,切れそうになっていた気持ちの糸をどうにか繋いでくれたのは小川だから。


去年,最下位で「どーでもいーや」と興味を失って当然のところを,小川の最多勝争いとバレンティンのHR数とで繋いだ。


最初は単なる勝ち頭としての期待だけだったのに,シーズン終わりごろには既に自己暗示が完了していて,かわいいかわいいとでれでれしていた。レプリカ買っちゃったもんね。


ポイントはそこじゃなかったはずなんだけどな。最初のうちは顔も知らなかったし,ルックスももともとの好みのタイプではないし。


それが今や「らいあんに顔の系統が似ている気がするから井手くん贔屓」ぐらいの影響を与える存在になってしまった。


今季開幕投手になって,毎週金曜日は早く帰ろうとがんばっていたし(家でTVを見ながらによによしていた),ハマスタに観戦にも行った。彼が4月早々に怪我で離脱して以降は,チームがなかなか勝てないこともあって,どんどん気持ちが離れていた。結果を追ってもいなかった。神宮球場にも行かないままになっていた。プロ野球そのものへの関心が失せている中,スターマンのあざといかわいさに負けてベイスさんに片足の先ぐらいつっこみそうになっていた。


7月に復帰が決まって復帰戦を観に行った。7月に4試合(小川3,村中1),8月に1試合(小川)。小川先発の日しか行ってないじゃんという指摘は甘んじて受けるが,球場に観に行かなくても家に帰ってテレビをつけたり,スポーツニュースを確認したりするようになった。


それなりに様子を追うようになると,それなりに楽しい。やはりチームが勝てば楽しいし,選手みなそれぞれ愛おしい。自分の言動は時折ヤクルトファンじゃなくて小川個人だけのファンのようになっているけれど,そんなことはない。山田とか。上田とか。あくまで若い選手きゃあきゃあ路線の中ではあるが。


青木もいなくなったし,宮本が引退して「顔」といえる選手も難しくなった。そのうえにミレッジ,バレンティン,畠山が故障離脱してたら,勝てるわけがない。投手陣は言わずもがな。


そりゃ楽しくないし興味も薄れるわ。そんなチームを熱く応援しつづけるほどの愛もない。


でも,惰性でもぬるくても,やっぱり神宮球場とスワローズを嫌いじゃないと思った日曜日だった。頼みますよー。と,どこへともなく。