十月大歌舞伎昼の部:@歌舞伎座


前日の金曜日に遅いお昼を食べていたら,近くの席から歌舞伎を観に行っただの明日観に行くだのという話し声が聞こえてきた。


このところなんとなくちらほら歌舞伎の話題が耳に入ってくるなあと思ったところで,今年は(今年も)まだ歌舞伎を観に行ってないことに気がついた。例によって正月の国立劇場は除いて。


バレーボールがない週末は貴重である。という発想は危ないが,ともかく,調べたところ今月は歌舞伎座新橋演舞場国立劇場と3つの劇場で歌舞伎の公演が掛かっている。あれもこれもと目移りしたのだけれど,せっかくだから劇場の雰囲気も味わいに歌舞伎座へ。幸運なことに,二等席にあきがあった。


銀座駅直結の地下の木挽町広場が賑わっていて楽しい。(平成中村座でも出ていた五軒長屋が出ていた由。常設ではないのね。)


歌舞伎座の十月大歌舞伎は十七世中村勘三郎と十八世中村勘三郎の追善興行。思い起こせば,前回当代勘九郎を観たのは一昨年二月の襲名披露だった。あのときは建て替え後の歌舞伎座市川團十郎中村勘三郎もいないなんて,想像もしていなかった。イヤホンガイドの幕間に,十七世インタビューと十八世インタビューがそれぞれ再放送されている。十八世は勘三郎襲名興行のときのもので,まるで若々しくて活き活きとしていて,「ああ,勘九郎さんってこんな人だったよな」と思い出すにつけ,(当時も今も,わたしにとって十八世勘三郎はテレビでたまに見かける「マルチな有名歌舞伎役者」であり,文字通りの「タレント」なのだが)この場にいないのが信じられないんである。中村屋の贔屓じゃないんだけど。


そして,久しぶりに観た当代勘九郎はほんとうに素敵だった。背筋がぴんと伸びていて,声が聞き取りやすくて,見ていて&聞いていて気持ち良い。こんなに若くして偉大すぎる父を亡くして中村屋の看板を背負っていくのは大変だろうけれど,この先が楽しみでもある。

新版歌祭文 野崎村


お光:七之助/久松:扇雀/お染:児太郎/久作妻おさよ:歌女之丞/久作:彌十郎/後家お常:秀太郎


藁葺き屋根の田舎娘のお光と都会の大店(質屋だっけ)の娘のお染が,久松を挟んで火花を散らす三角関係モノ。


と思って事前学習なしで観ていたんだけどね。


最後はもらい泣きしていた。お光が辛すぎて。


あとになって考えてみれば,どう考えても「久松,お前が悪い」だの,「お常さん,裏で話を聞いているならもう少し早く来てくれてこうなるまえに話をおさめてくれれば良かったのに」だの,言いたいことはあるんだが。とかく歌舞伎に出てくる世話物の世の中は理不尽だ。


ずっと好きだった相手だけど事情が事情だからと自ら身を引いて出家した切なさ,だけじゃなくて,都会と田舎つーかね。お光は,年老いた父と,いつお迎えが来ても不思議じゃないぐらいに具合を悪くした病床の母と3人で,あの田舎の家に残されたんだよ。賑やかな修羅場を過ぎて幕切れの場面で三人が去ったあとの静けさ。絶望的な夕暮れ。


後日談として,そういう経緯でもって都会に戻った久作とお染なのに結局心中しちゃうのだから,お光はやっぱり出家し損だったわけで。


難だったのは,イヤホンガイドの解説の喋りすぎ。ある程度は義太夫狂言の宿命でもあるし,衣裳や下座音楽の解説はとても有り難いんだが,それでも最後の場面は,解説は要らない。

近江のお兼/三社祭


近江のお兼:扇雀


悪玉:橋之助/善玉:獅童


三社祭は,正直なところ,合っているのか合っていないのかわからなくてもやもやした。もうちょっとぴたっとシンクロしている方が自分は好みだけど,もともとああいうものなのだろうか。


歌舞伎の舞踊,あんまり得意じゃないんだよなあ。長唄なり常磐津なりの歌詞が聞き取れなくて,何を歌っているかがわからないのがよくないんだと思う。なんせ浄瑠璃義太夫も聞き取れていないぐらいで。


少し前に,うまい舞踊は寝る,という話をしていたのを思い出したり。


だいたい昼ご飯を食べる幕間のあとが舞踊なのも寝落ちてしまう要因じゃないか。


寝なかったけど。

伊勢音頭恋寝刃 油屋店先 同奥庭


福岡貢:勘九郎/油屋お紺:七之助/今田万次郎:梅玉/油屋お鹿:橋之助/油屋お岸:児太郎/仲居千野:小山三/藍玉屋北六実は岩次:桂三/徳島岩次実は北六:秀調/仲居万野:玉三郎/料理人喜助:仁左衛門


たぶん3度目,かな。大昔の八月納涼,数年前の新橋演舞場11月花形通し。


玉三郎の万野がほんとにほんとにほんとに厭な人だった。底意地が悪すぎる。ストーリー上の悪人は徳島から来た藍玉屋の人達のはずなのに,岩次が悪人に思えない(タチの悪い酔客にああいうのよくいますよね)ぐらいに,万野が厭な奴。


奥庭の場面はけっこうぐろい。


みんな団扇を持っていて,徳島から来た客も奥庭の場で出てくるほかの客も浴衣姿。暑くて不快でみんながいらいらしている夜だったのかなあ,なんて思ったりはしますわ。


今月は名古屋でも「伊勢音頭恋寝刃」をやっていて,夏でもないのに何故。そちらは音羽屋さんなので音羽屋の型らしく,そちらも観てみたい。とくに時蔵丈の万野。玉三郎とぜんぜん違いそう。(名古屋の夜の部楽しそうだ)。