街のライムライト


そのニュースは昼休みのTLに突然現れた。


黒沢健一死去。


48歳。なんて言っていいのかわからない。何を思っていいのかわからない。


20年前のひととき好きだった。ドラマの主題歌でブレイクして,田舎のわたしが知るぐらいに有名になった。CDTVのランキングでしばらくずっと上位に入っていた。それがきっかけだった。


当時手に入るアルバムを買って,大切に聴いた。買っていた雑誌の記事を大切に読んだ。


だけど,L⇔Rが活動を休止したあと各々のソロ活動を追うことはなく,長い歳月が過ぎていた。20年。訃報を聞くまで意識の底に沈んでいたことは否定しようがない。脳腫瘍を患っていたこともそれを公表していたことも,知らなかった。だから,亡くなったことを知った今になって無邪気に何かを言葉にするのは,それがなんであれ冷酷というか,筋違いな気がして,もやもやしたまま午後を過ごした。


割り切れないし受け止めきれないから,花を買って帰った。家に帰って,古いCDが詰め込まれた埃の被った箱を開けた。引っ越してから未だにオーディオを設置していない我が家には,日常にCDを再生する環境がない。CD-ROMドライブのついた古いMacBookを取り出して,リッピングしてiTunesに入れて,iPodにうつして,iPodからBluetoothでスピーカに飛ばして聴いている。今。


それくらい久しぶりに聴いた。


訃報を目にして最初に浮かんだのは,人って死ぬんだ,ということだった。


現役のアーティストであっただろう彼に対して,過去のある時点をもって自分から離れていたくせにものすごく身勝手だけれど,自分が知らなくても忘れていても,どこかで元気に過ごしているものと決めつけていた。そのことを意識もせずに,根拠もなく。


亡くならなければニュースになることも自分の目に触れることもなかっただろうと思うと,余計にやるせない。


10代の一時期毎日のように聴いていた声が,忘れている間にわたし自身が過ぎ去っていた,20代の彼の声が,今,スピーカから流れている。音楽は永遠だ。彼がつくった音楽は今聴いても鮮やかにわたしの胸を揺さぶるし,録音された彼の歌声も20年経った今も褪せずに聴くことができる。


でも,もう彼はこの世のどこにもいなくて,新しい音楽も新しい肉声も紡ぎ出されることはない。


青春というほど大げさなものではないけれど,ちょうど自分が高校3年生のときに「KNOCKIN' ON YOUR DOOR」がブレイクした。アルバムを買って,どの曲もすごく好きで,黒沢さんがかわいくてかっこよかった。


そうして,それなりに精神的にしんどかった大学受験の冬を共に過ごした。受験の真っ最中に3月下旬の大阪城ホールのライブのチケットを取って,目の前のにんじんにした。人に誘われることはあっても人を誘うのが苦手なわたしが,初めて自分から行くと決めて,自分で手配して,一人で大阪まで出かけたライブだった。


大学に進学してからは生活がかわって,音楽を聴くことそのものの割合が低下し,ちょうどそんなころに活動休止して,今に至る。


追悼できるような立場ではないけれど,信じられないと言う権利もないけれど,しばらく彼の歌を聴いていよう。


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