慶應義塾大学男子バレー部の応援についての覚書
わたしは基本的に関東学連の男子1部リーグしか見たことがないが,その範囲でみる限り,大学のバレーボールの応援は,Vリーグや全日本(シニア)とはかなり趣を異にしている。
大学によっての差違はあるが,概ねベンチアウトの選手(部員)が固まってスタンドに座り,メガホンを用いて肉声で応援する。声かけのリードの子がいて,他の子が声をからしてそれに続く。応援機は自チームの得点後が中心で,面白い振り付けやウェーブ的なものもしばしば見られる。タイムアウト間の応援もみられるが,いつもではない。
全日本大学選手権などの大きな大会の終盤では応援団やチアが来るところもあるが,通常のリーグ戦はたいていがそのようであり,体育会の男子による体育会男子の為の応援,というどこまでも硬派な世界が展開されている。
で,慶應。先の東日本インカレ準々決勝・準決勝を見たところ,昨年までとはちがう新しいスタイルで応援していた。そして,それはこれまでほかの大学では見られないものだった。べつに軟派だったわけではない。リズムにあわせて選手名とプレーとを組み合わせてコールしていた。
♪「ほしやのブロック! どどんどどんどん」×2 とか ♪「おかだのスパイク! どどんどどんどん」×2とか,そういう具合。そして,そのあとサーブに入る選手に対して「やなぎのサーブ! どどんどどんどん」と続く。
その得点後のプレーコールも,ブロック or スパイクだけじゃなくて,もうちょっと細かかった様子で。どうしても音は籠もるので聞き取りづらいのだけれど,♪まみやのレシーブ! もあったかな。なかったか。♪ゆうとのクイック! とか(だんだん捏造入ってきました,ごめんなさい)。
さっそく対戦相手の法政の子が法政がキルブロックを決めたときに一度真似をしていた。おもしろい応援は伝播する。
今年からこのスタイルというところに,慶應のファン(観客)に向けた努力が感じられて,しみじみとした。
慶應は一昨年の入れ替え戦に勝って昨年の春から1部に上がったチームで,昨年は春・秋ともに1部の中ではけして好成績ではなかった。そんなチームにこの春,高校バレー界隈でかなり名が知れていた選手が入った。そもそも彼の進学先が慶應という話が耳に入ってきたとき「もっと強いチームに入るだろうと思っていたのに」という感想を持ったことは否定しない。進路の選択にはいろんな要素がからむので(バレーをする環境でもそれ以外でも),どこを選ぶにせよ本人が進みたい道を進みたいように進めればそれがいちばんだと思っていたら,わずか数か月で見違えるほど結果を残せるチームになった。これからは強豪校として華やかなイメージを振りまくのではないかと夢見たりするんだけども。
いずれにせよ,春高のぷりんす(?)の加入にともなって初めて大学バレーを見る新しいファンがやってくる可能性が高いことを彼らはわかっていて,そのうえで初めての人にもわかりやすい,親しみやすい,参加しやすい応援コールをつくったんじゃないかと思った。あれなら,応援の控え部員の子達と一緒にコールできる。リズムがよくて,つい口ずさんでしまう。
とくに好感を持ったのは,相手のサーブやスパイクがアウトになったとき。あからさまにどーにもならないネットにひっかけたスパイクミスや大幅にぶれたアウトボールをどう処理していたかは記憶にないのだが,それなりにライン近くでアウトになったボールに対して「♪おかだのジャッジ」とライン際でアウト判定した選手をほめるコールをしていた。
一般に,相手の失敗による得点コールは「♪ラッキーラッキー」とか「♪アウト,アウト,アウトアウトアウト〜」とかの類が多い。たしかに仰る通りではある。相手のミスでも1点は1点なので,片方のチームを応援していたら相手のミスを喜ぶのは,これはもう仕方ないことでもある。それらのコールが特段意図的に相手をけなしたり揶揄したりしているわけではないことは頭ではわかっている。
が,対戦相手を贔屓していたら「む」。ってなるのも事実。「む」となることが悪いわけじゃないけど。コート上の人達は案外「む」となって発憤するかもしれないし。
それでも,慣れない間はあまり良い気分じゃなかったから,相手の失敗をことさら言わずにあくまで自チームの好プレーを取り上げる慶應のスタイルは好ましかった。嫌味にならない程度に,という但し書きはもちろんつく。
バレー部のWebサイトも充実している。かなりの頻度で選手が交替で記事を書いているし,(アメンバー限定になったけど)マネージャーによるブログもある。スケジュールや試合結果もマメにアップされている。先だって,いつでも練習見学に来てくださいね選手もやる気が出るからといった旨の記事が上がっているのを見たときには,感動さえした。
先の土日の日体大体育館は,席数の少なさや男女共催だったことを考慮してもなお,観客の熱気や選手ではない若いお嬢さんの姿やときに黄色い声がこれまでよりも増えていたように感じられた。わたしはもうどうひっくり返っても若いお嬢さんにはなれないし,自分の居場所はほしいので若いお嬢さんだけの場になってほしいと願ってもいないのだけれども,野太いコールに黄色い歓声が混じるのもまた喜ばしからずやと顔をほころばせていた。
関東で行われる次の大学の公式戦は少し間があいて秋季リーグ(9月か,噂だと8末〜)になるけれど,ちょっぴり見えたような気がするムーブメントが続くといいなと思っている。
追記(言い訳)
その後10分ぶんほどHDに眠っていた動画をひっくり返してみたら,サーブ前以外は選手+プレーパターンのコールはさほど行われていなかった。印象が強かったので頻繁だったと思いこみいささか誇張して書きすぎたことをお断りしたい。得点者の名前×3コールが基本で,これは以前から使われている。
その後twitterで慶應は「応援団」ではなく「応援指導部」であるという情報をいただいた。その名前からして,自分たちが応援するのではなく全員で応援するためのリードをとる人達という意図が感じられる。先の試合では応援指導部の方々はいらっしゃっていなかったが,塾生塾員ひいてはファンの全員で応援しやすいようにとの校風が根底に流れているのかもしれない。
誤解されるとアレなのだが,他の大学も点を取った選手名のコールはしているし,まるきり参加できないとは思わない。また,わたしはアンチな応援もけして嫌いではなく,たまに苦笑しつつも,おもしろがってはいる。