五線譜と


そんなことを考えるに至った経緯は長くなるので省くが,今日の昼休み,しみじみと,五線譜(ここでは五線譜とそれに付随する各種の符号や文言で構成された楽譜を指す。「楽譜」もほぼ同義で使用)って凄いなあと思った。オチがなくまとまりようもないはなしなので適当にだらだら書く。


はてなタブ譜だけじゃなく五線譜も書けるようになればいいんだけど(もう実装されてたらごめんなさい)。


五線譜って,現代のように録音・再生の技術・機器が進歩・普及していたら,存在しなかったかもしれない。ポップミュージック業界には楽譜が読めないプロなんざごろごろいるという都市伝説を聞くにつけ,音楽をやる上で読譜(書譜)技能はなくても疵にならないことがわかる。楽譜ありきで育った人間には耳コピだけの世界がむしろ困難に思えるけれど,たしかに,楽譜を読むのは難しいことだし,あれだけシンプルで機能的な五線譜でも表しきれないことはあって,それは実際の録音にはどうしたって敵わないだろう。


物心つくやつかずやの頃から五線譜に親しんでいる人間が,段階を追って少しずつ記法を覚えていけば,まったく難しいと感じることなく自然に読み方を身につけられる(読み方が分かる=楽譜読めるではないがそれは別の話として)。しかし,改めて五線譜の仕様や機能を羅列しようとすると,おそろしく複雑で難しい(論理的なようで論理的でない)ルールの上に成り立っていることがわかる。あれらを座学で一気に頭に入れるのはちょっと無理だろう。何が難しいって,あれは全て相対的に示されていて何一つ絶対的なものがない。


楽譜の最初(や,速さが変わる箇所)には,速さが示されている(ただし,少女の手習い的なピアノレッスンではしばしばその指示は無視される)。♪=120のように書かれている場合は,1分間の♪の数なので分かりやすい。今「おんぷ」で変換すると八分音符しかでないので八分音符で書いているが,実際には拍の基準となる音符のBPM(なんちゃら per minute)で示す。拍の基準となる音符は,五線譜の出だしにある分数の分母にあたる。4/4拍子なら四分音符,6/8拍子なら八分音符。つまり,拍子によって速さの基準音が異なる。


また,少女の手習いで弾くようなピアノ曲では,速さがAndante, Moderato, Arregro等のイタリア語で示されていることも多い。「ゆっくりと」とか「歩くような速さで」とか「速く」とか(対応してません,念のため)っていう形容詞なので,それらしく適当に演奏すればいいものらしい。実際にはそれぞれBPM幾つぐらいという目安はあって(メトロノームにも書いてある)それに準じる。


次にようやく五線部分に入り,まず,五線のどこを「まんなかのド」とするかを示す記号が入る。記号の種類によって,譜面上のどこが「ド」になるかが異なる。これが,慣れない人間が五線譜を苦手と感じる大きな要因だろう。個人的にはト音記号なら今でもどうにか読めるがヘ音記号はつっかかるし,ハ音記号(3種類ある)はまず読めない。ちなみに,いずれも記号の書き始めの位置が記号の名前の音となる。つまり,ト音記号なら書き始めが「ト」だし,ヘ音記号なら「ヘ」だし,というシロモノ。(だからト音記号のぐるぐるは必ず下から二番目の線から書き始めないとならない)。


それから,拍子を示す分数が入る。4/4(よんぶんのよんびょうし)なら,四分音符を一拍と数え,四拍で一小節を構成する,という表示。2/4なら四分音符二拍で一小節,6/8(はちぶんのろくびょうし)なら八分音符を一拍と数え六拍で一小節。つまり,どの音符を拍の基準の音符とするかも,曲によって異なる。


この四分音符やら八分音符やら自体「全音符」に対して1/4の長さの音,1/8の長さの音,といった相対的な決め方でつけられた名前だが,実際の速さは前述の通り冒頭のスピード表示で定められるので,四分音符ならこの速さ,という基準はない。或る曲の四分音符より別の或る曲の八分音符の方が絶対的には「遅い」ことはざらにある。ちなみに,全音符(白抜き棒ナシ)>二分音符(白抜き棒アリ)>四分音符(ベタ棒アリ)>八分音符(=♪←ベタ棒アリ髭1本)>十六分音符(髭2本)>三十二分音符(髭3本)……と1/2の階乗方式になっている。また,音符にホクロがついていることがあるが,あのホクロはその音符の長さの0.5の長さを足した長さを示す。ホクロ一つだと(付点○分音符)1+0.5で1.5倍。ホクロが二つつくと(複付点○分音符,だったかな,滅多に出てこないので忘れた)1+0.5+0.25=1.75。ホクロはあくまで親音符(?)の半分の長さなので,ホクロ単体で長さが決まっているわけではない。二分音符につけば四分音符分長くなるし,四分音符につけば八分音符分長くなる。付点四分音符=4分音符+8分音符の長さ(4/4拍子だと1拍半になる)。音を出さない部分は休符を示すことになる。休符の種類も音符の種類と同じだけあり,表し方の仕組みは音符と同じ。


各小節には一見意味がなさそうだが,いちおうなにがしかの意味があるらしい。分かりやすいところでは,小節内の拍ごとに基本の強弱が決まっている(2拍なら強・弱,4拍なら強・弱・中・弱)。なので,行進曲は2拍子だし,ワルツは3拍子だ。もっとも,所謂JPOPの曲は,採譜されたものを見る限りほぼ100%4/4っぽいが。


そのあとが,えーと,♯やら♭が書いてあるんだっけ。ここの♯やら♭やらは,楽譜界ではめずらしく絶対的(?)なものかもしれない。単純に,記号が付いている音は常に半音上げて弾く(♭なら半音下げる)という指示だけど,これがつまりはその曲の調(ト短調とか変ホ短調とか)を示しているので。長調短調かはなんというか,曲(和音)から読み取るしかないんだけど。♯やら♭やらが書かれる順番は決まっていて,たとえば長調の場合,ピアノ曲の譜面なら何もないのがハ長調,♯1個(Fにつく)がト長調,♯2個(FとC)でニ長調というふうに,♯は5度ずつ上がる。♭は4度ずつ下がり,♭1個(H)でヘ長調,♭2個(HとE)で,なんだっけロ長調?。


面倒になったんでこの辺にしておきますが。この♯・♭がまた,素人さんでなくても複雑怪奇になってしまう大きな原因の一つだと思う。そもそも,所謂「どれみふぁそらしど」がミ→ファとシ→ドだけ半音階という非論理性を内在していることが,西洋の音階と楽譜をややこしくしている最大の原因だと個人的には思っている。もしかすると,弦楽器や管楽器から入れば気にならないのかもしれないが,ピアノの鍵盤を頭に思い浮かべると,黒鍵・白鍵の並びと音の上がり幅が違うので,ややこしい。その非論理性に充ち満ちた音階をむりくり五本の線と4本の隙間(名前忘れた)と五線の上下の無限の空間を使って示そうとしている時点で,矛盾が生じるのは仕方ない。


しかし,逆に言えば,たったこれだけのことに,音の出し方を示す強弱記号やテヌート・スラー・スタッカートの類を加える程度でかなり細かな部分まで示すことができるのは,完成度の高いシステムだとも思う。理論上,西洋音楽ならどんな音楽でも表せるだろう。シンプルが故に奥が深い。実に奥が深い。そりゃ録音には負けるけれど,録音ということができなかった時代,曲を記録するにはこの方法しか無かったんだから。


とはいえ,音を聞きながら楽譜を見るという訓練を怠っていると,だんだん読めなくなっていく。理屈で,ここがドだな,とかはわかるのだが,実際の音の高さの動きやリズムが頭の中で再構築できなくなる。簡便ではあるが,やはり読むのはそれなりに難しい。そりゃ,使わずに済むなら使わないでいたいものである。


そもそもは和音(コード)とかタブ譜とかの話になるはずだったんだが……まあいいや。和音の理論をやらなくても楽器は弾ける,楽譜を読めなくても楽器は弾ける。両者,似たような者かも。