注)長文ポエムです。

言葉にならないと言いながら,こういう試合を見た後は,幾つものフレーズが頭に浮かんでは消える。どう書こうかと考えながら家までの道を歩いている。歩きながら考えていたことをぺたぺたと打鍵するだけのはずなのに,なぜかいざエディタ画面を前にすると頭に浮かんでいたはずの文言はどこかに消えてしまい,うまく書けないジレンマにまた悶えることになる。
書きたいことはたくさんたくさんあるのに。そんな夜。

2010年度バレーボール全日本大学選手権 準々決勝 順天堂大学3-1東海大学

順大が勝った。あえてそう書きたい。もちろん,世間では今日のこの試合が「東海大が負けた試合」として語られるだろうことはわかっているし,わたし自身,その側面も大いにある。
東海大学が大学相手に公式戦で負けたのは,2009年の春季リーグ(対中央大)以来となるようだ。ほぼまるまる2シーズン負けなかったチームは,皆が大学10冠達成を期待した(期待を通り越してなかば確信に近かったかもしれない)最後の大一番で,大学バレー業界の最高の舞台で,ベスト8で姿を消した。
現在の大学男子チームのなかで強いて挙げれば程度のささやかさでもって順大をほんのり贔屓してきたわたしにとって,今日の一戦は戦う前からなかば敗退を覚悟して臨んだ試合だった。いくら口では「勝負は,してみなきゃわからないよ」と言ってみても,頭のどこかで「それでも東海が勝つんだろうなあ。せめて不様な負け方だけはしませんように」と思っていた。昨日も書いたように,トーナメント表が出来た時点で,金曜日にそびえ立っていたのは絶望に近い壁だった。
思わないはずがない。関東1部の中で群を抜いていた。レベルが違っていた。ほかのどのチームも歯が立たなかった。ゆいいつフルセットに持ち込んだ秋季リーグ最終日の明治大学も,第5セットで力尽きた。「つよい」東海大の戦いぶりを,今季,数少ないながらも何度も見てきた。
個人的にこの両チームは,どちらも,とくべつなチームだ。
初めて認識した大学チームが東海大学であるならば,大学チームの中で初めてチームとして意識したのが順天堂大学
単純に好きかどうかで言ったら,断然東海大のほうが好きかもしれない。どの競技でもどのカテゴリでも強くてたくさん勝ってるチームが好きな傾向はあるんだけど*1東海大はもともとNECに東海出身の選手が多くて母校的な贔屓もあったし,黒鷲や天皇杯でVチーム相手に堂々とやってのけてくれる楽しみもあるし,様子をみていてもみんなびしっとしてて試合前練習の声もいちばん出てて,真摯で熱心で手を抜かない。大人数だけど団結してる。そこに贔屓選手の1人2人も混じってるときたら,好きでない方が無理だ。
順大に対しては好きとか好きじゃないとかではなく,その大部分を歯がゆく時には舌打ちしながら,それでも2009年春の衝撃から今まで目が離せなかった。リアルタイムでツー(以上)セッターをこれだけたっぷりと堪能できる機会が,そうそうあるとも思えない。めまぐるしいポジション交代,選手交代。万華鏡みたいなくるくるしたチームを,いつまでもくるくる覗いていたい。いいところもわるいところもあるけれど,次はどんな模様になるんだろうって。
この2チームの対戦で順大を贔屓してしまうのは,ほとんど習慣というか癖のようなもの。順大に限らず,どこか東海大に土をつけてほしいと,今年の秋ぐらいからはずっと東海大の対戦相手を応援していた気がする。
それに,東海大はまだ天皇杯が残っている(個人的にはそっちの方が楽しみだったり)けれど,天皇杯関東ブロックで敗退した順大はこの全カレがほんとにこのチームの最後の大会になる。今季の順大の最後はつまるところ渡辺俊介の打ち屋としての一区切りをも意味する。どんなに未練たらしくても,多彩な彼のプレーを少しでも長く拝んでいたい。
凄い試合を見たとしか言えない。どんな試合だったかを語るだけのちからがわたしにはない。
人によって見え方は異なるだろう。立ち位置によっても,視点によっても。ある人は今日の東海は今ひとつだったと言うかもしれないし,ある人は順大がすごく良かったと言うかもしれない。好ゲームだったと感じる人もいれば,東海が負けた事実を除けば試合そのもの特段のものではなかったと感じる人もいるかもしれない。
わたしは冷静に見ていることなんてできなかった。何が勝敗を分けたのか,両チームの今日の調子がどうであったのか,戦略は,戦術は,そんなこと,どうでも良かった。
第1セットは完全に東海大が握っていた。足が動かず凡ミスも頻発する順大の戦いぶりを情けなく思いながら,これで来年からは心おきなく東海大に熱を上げられるなあと,腐れ縁とようやく手を切れるような気持ちが去来していた。最後なのにそんなに淡々としてるなんて,と,悔しかった。隣コートの筑波×明治の方が面白い試合になりそうなのにそれでも東×順が気にかかってしまう自分が恨めしくもあった。
それが,なぜか第2セットから徐々に流れが変わっていった。そこそこのリードを保って第2セットを取ったはずだが,展開を全く覚えていない。東海大に対しては「タイムアウトを取らせた」「セットを取った」だけでも「おおお」と興奮してくる。セット取った! 少なくとも第4セットまで見られる! スト負けじゃなかった! 雰囲気いいよ! それだけで嬉しかったり。
第3セットの終盤のデュースはどちらに転ぶかわからない緊迫した攻防だった。順大が粘りに粘った。白熱した試合とそれを見られた感謝でいっぱいいっぱいで,結果負けてももう思い残すことはないと思った。この試合をテレビで放映してほしかった。準々決勝なのが,ほんとうに惜しかった。
第3セットを32-30で制した順大は第4セットも序盤から好調を維持した。場内には異様な雰囲気が漂い始めていた。中盤になっても東海大が追いつくどころか順大がじりじりと引き離す。「もしかして,このまま行っちゃう?」「東海大相手にセット前半で判断はできない,いつでも追いつける力があるさ」と心が忙しい。あまりのことに体はのぼせるし動悸がしてくるし脈は速くなるし手は汗ばむし,おまけに睡眠不足も手伝って,頭は沸騰してどっか切れてた。ワタシ,そうとううるさかった。
後ろ3分の1からある意味予想通り東海大が点差を詰めてきて,20点付近で追いついた。いつもならそこからが東海大のターンだったのだろうけれど,この日に限って,そのまま順大が逃げ切った。
東京体育館にもマモノがいる。
第4セットの21-20ぐらいで東海大八子にサーブ順が回った。彼の力をもってすれば一気にひっくり返してセットをそして試合を持っていくぐらいのことは珍しくもない。その局面でサーブがネットにかかったとき,順大の蔦宗監督は選手と共に両手を挙げて喜んだ。
あまりに素直な感情の発露に,思わず笑ってしまった。
今日の試合の何が嬉しかったかって,順大の選手達が熱くなってたことだ。まだ順大をほとんど知らないときに見た2008年全カレのテレビで,監督のコメントとして紹介された「ウチの子達はみんな大人しいから」が今も心に残っている。代がかわっても「よくわかります」と言いたくなる。喜んだり飛び跳ねたりしないわけじゃないけど,冷静さよりも気分に左右されてる部分が強いようにも見えるけど,他のチームに比るとやっぱり「大人しい」。
そんな彼らが試合が進むにつれ,淡々とだらだらと過ごしていた第1セットが嘘のように熱くなっていった。ボールを落とすまいとコート内を飛び交い,1点取るごとに跳び上がったり床を叩いたりハイタッチしたりしながら吼える。
1点1点手に汗握る攻防。リザーブメンバーに阻まれて得点経過も満足に見えず,いつもは持ち歩いている手帳も忘れてきて,試合を見るしかなくて。
全体のことはまるで覚えていないのに,幾つかのシーンだけがコマ送りの制止画のように頭にこびりついている。前述の八子がサーブをひっかけた場面もそうだし,第3セットデュース中に見られた伏見のサービスエースもそう。わたしの席からはサイドラインを割っているようにも見えたぎりぎりのオンラインのそれは,東海メンの抗議にも判定は覆らず,結局それが第3セットの行方を決めたとも見えた。サービスエースが決まる瞬間って,時が止まる。
デュース中のラリーで見せた俊介の「打つと見せかけてトス」は,その瞬間には何が起きたのか分からなかった。明らかにトスになる軌道を描いて後方から上がってきたボールに対して前衛のライトにいた俊介がジャンプした。どう見てもスパイクを打ちそうなシーンだった,次の瞬間,ボールは想定とはまるで線対称の方向に走り東海大のコートに突き刺さった。落ちてくる2人の姿を見て,つまりは俊介は空中で短いパスを出し,真ん中にいたクリスがそれを打ったんだなと,想像でしかない。リアルに「今の,何?」と口に出してしまった。後方にいたプレーヤらしき観客は「俺だったらクイックに入ってないと思う」と呟いた。
それから,第4セットだったかの樋渡のサービスエース。どちらかといえば守備の人であるキャプテンは,今日は好守にわたって大活躍だった。薫さんのことはもう,胸がいっぱいいっぱいで,大好きとしか言えない。このチームでいちばん好きな選手はもしかしたら薫さんだったのかもしれないと思った。過去形にはまだ早いな。たしか春季リーグのどこかの試合で書いた,順大がビハインドをひっくり返して勝った試合。あのときは途中交代で入った薫さんが試合を立て直した。今日はスタメン。ノれないままずるずると流れかけていた順大に棹をさして,ひとりで奮闘していた第2セット序盤。そのふんばりが効いて順大は盛り返せたと思う。安定したレセプションに加え,前衛レフトからの確実なサイドアウトやブロックでも得点を取っていた。そして上記のサービスエース
俊介を1とした場合,今日は伊藤が2で薫さんが5だった。秋は(見ずに書くが)伊藤が5だった。そして見ずに書いているので伊藤の対角に誰が入っていたか思い出せない。今年は春も秋も,伊藤の対角を固定できないままだったように思う。阿部にしろ樋渡にしろ浅野にしろ,コンスタントに良い感じとはいかず,試合ごとにも試合中にもよく変わっていた。
俊介と伊藤を隣に並べるのは一見攻撃要員が偏りそうに思えるけど,S1*2の鬼門以外は,2人とも後衛となるS6もS5も,山田のライトなり樋渡のレフトなりでかなりさくさく取っていた。レセプションアタックに関しては,1年生MB2人が春先に比べて計算できていた部分もあったように見えた。
ジャイアントキリングを果たした順大に比べれば,東海大はふだん通りでむしろふだんよりもちょっとずつ地味だったかもしれない。八子のサーブもそれほどには火を噴かなかった。大矢の神出鬼没も少なめだった。安永の壁も薄目だった。
順大にここぞという場面でのサービスエースが出たということはつまり,東海大のレセプションはいまいちだったのだろうか。それにしても,伏見も樋渡も俊介も伊藤も,ほかにもいたかもしれない,順大の選手は皆,コートの端ぎりぎりを狙ってサービスエースを取った。そのほとんどがノータッチエースだったと思う。試合前のサーブ練習でみんなぜんっぜんサーブ入ってなかったのに,どうしたら1試合であんなにも際際を狙えるんだろう。そしてそれが入るんだろう。
だけど,小澤はなぜ気づいたら空中にいるのか。なぜその弾道を描けるのか。そして,前衛でのクイックに見まごう八子のパイプ。こうして期間が開いて見るごとに音が変わっている星野のレフトからのクロススパイク。たまに出てくる深津3の飛び道具。回せない塩田のサーブ*3東海大が特別悪かったとは思えない。敵としてみたとき,やはり脅威だった。
第3セットの最後までただの一度も1回で切れていなかった順大S1レセプションローテーションが,第3セットの最後に初めて1回で切れた。第4セットも塩田にサーブが回るたびにひやひやしたがほぼ全て1度でサイドアウトを取った。S1を回せるようになって,得点経過が分からないなりにも順大が少しずつリードを広げ,追いつかれたけれども,どうにか,こうにか逃げ切った。
東海大は流れをひっくり返すことまではできなかった。あんなに落ち着き払った子達でも,焦っていたのかもしれない。小澤は跳ぶし八子も跳ぶ。サイドアウトは取れる。サービスエースも決まる。でも追いついては離される。そして25点。
東海大学がベスト4に入らなかったのはいつ以来なんだろう。2年連続大学5冠にあと1つまで来ていた今のチームは,将来結果だけで歴史を語られるとき「2010年全日本インカレベスト8」と,ここ数年の東海大学の歴史の中では不名誉と取られる数字のみで受け止められるのだろうか。
そうじゃないよね。そんなことはないよね。これまでの強さは本物で,トーナメントのただ1度の敗戦で消えたりはしない。
今日の試合は東海大の面々にこの先どれだけの影響を残すだろうか。一生に一度しか手に入れられない大学最後の大会を落とした4年生は,ずっと引きずっていくのだろうか。詰めが甘いと自分を責めるだろうか。願わくばこれを糧に伸びてほしい。それがバレーボールでもそうでなくても。
試合後コートにうずくまったまま動けないでいた八子に深津貴之が声を掛けて助け起こした。大きな荷物を抱えて引き上げるベンチ外の面々にもなにやら声を掛けていた。他の大学にいれば出場機会はもっと多かっただろう彼の試合以外での役回りが垣間見えた場面,夏の東日本インカレの暑い体育館が頭をよぎった。
一方の順大はどうだろう。あと2日,俊介の違う色じゃないユニフォーム姿を見られることになった。今日の試合が終わった後,見てただけなのに燃え尽きていた。ここで燃え尽きて明日はころっといくんじゃないかと不安だった。大商大,関西1部リーグ1位だとか。全然わからん。恐い。まじ恐い。でも半日経って,働いて,まだぼーっとはしているけれど,燃え尽きからは抜け出した。まだ終わりじゃない。ここまで来たら優勝あるのみ。今年これで優勝しなけりゃいつ優勝するんだ。まだ準決勝だ。あと2つ!
12月4日,男子の準決勝は順天堂大×大阪商業大学と中央大×筑波大の2カード。タラフレックスのセンターコートでテレビ放送までやってきた。あと2試合。Jスポーツのどこかのチャンネルで朝10時(女子準決勝1・2試合→男子準決勝1・2試合)ごろからずずいと生中継していますので,お暇な方はぜひどうぞ。

*1:「○○は強くてたくさん勝ってるの?」類のツッコミは受け付けられません

*2:しゅんすけ1

*3:鬼門