北川祐介ラストゲーム
わたしはいつだって同い年(同学年)の選手を異様に気にしてきた。たまたま近い時期に生まれたというだけのことなのに一方的に親近感を覚えて,心の内で応援してしまう。特に男子バレーボール界では1・2学年上や1学年下には有名選手がごろごろいるけど同学年はさほどでもないという言わば谷間の学年で,上下に押され気味で地味になりがちなところを発憤をしてほしかったというのもある。だから,内定の年からほぼレギュラーで2チーム11シーズンに渡って出場し続けた北川のことは,最初からとても気になっていた。
11シーズン通算でブロック賞を5度受賞。第10回から第12回まで3年連続,1年あいて,2007/08と2008/09の2年連続。ベスト6が第12回と2009/10(今季)の2度。ブロック職人のイメージが強いが,第12回はスパイク賞も受賞している。
全日本派には馴染みのない選手だろうが,男子のVリーグを観てる人で彼のことを知らない人はあまりいないだろう。
優勝決定戦後の最後の表彰式で今季のベスト6が発表された際,北川の名前が呼ばれて,ちょっとだけ予想外で驚いた。今季限りでの引退が決まっている彼に対するこれまでの通算成績を加味した下駄或いは引退御祝儀もあるのかなあと思った(けして不満だったわけではない)。ちょっと前に個人技術集計の帳票を見たときはあまりいい成績じゃなかったし,セミの3日目(初日と2日目は知らない)も今日の試合も,そんなには良くなかったからだ。
だけど,今これを書くにあたって改めてシーズン通算の帳票を見たら,今年もブロック通算2位にちゃっかり入っていた。1位の富松との差はセット当たり0.02本。富松と並んでMB部門でベスト6に入ったって,けしておかしなことではなかった。
そのシーズン通算成績をもってして,セミファイナルの3日目と今日,つまり,わたしが今季見た数少ない試合ではあまり良いところが見られなかったのは,大変残念だった。最後の勇姿を観たくて出かけただけに,すっきりしない気持ちは残った。
残念ながら,現実とはそんな風に無粋なものなんだろう。まだまだ勿体ない,ほんとに勿体ない,心底勿体ない,と引退を惜しみまくり嘆きまくるよりも,綺麗に自分の引き際決めたな,と思える方が,わたしの気持ちも楽かもしれない。
最後の年に僅差でブロック賞を取れなかったことも,最後の年にチームがベスト4に入れたのも,だけど決勝には進めなかったのも3位になれなかったのも,通算230試合出場のVリーグ栄誉賞とベスト6を受賞したのも,全部それが現実。
このぐらいの中途半端さも現実らしくて良い。
2006/07シーズンに,それまで3年連続していた北川からブロック賞を奪ったのが当時1年目の富松だった(この年の北川は珍しく4位だった)。それから2シーズンは北川が連続してブロック賞を取り,今年,北川引退の年に再び自身2度目のブロック賞をもぎ取ったのも富松だった。
ベスト6の表彰を北川と並んで受ける富松はなんだかやたら格好良く見えて,富松の時代がいよいよ来るのだな,と思ったりもした。
別に北川のバレーボール人生がこれで終わったわけじゃないし,むしろ現役選手なんて(20年やってたわけだけど)彼にとっては人生の通過点でしかなくて,これからが本番かもしれない。春高やインターハイの決勝の舞台で指導者としての彼が帰ってくるのを待ってる人がきっとたくさんいる。
試合終了して3位表彰が終わった後,彼はチームのみんなから胴上げされて,頼もしかった背番号2の背中を大写しにしたユニフォームの特大のパネルと洒落た花束をもらって,それから応援団席からはなむけのエールが贈られた。
「北川先生のこれからの活躍を祈って」。
わたしの目で見えるところからはいなくなってしまうけれど,いつだって心の内で祈っている。