公文協中央コース松竹大歌舞伎@立川市民会館
いわゆる「巡業」。今回初めて行ってみた。
S席・A席と2種類あるうちのA席4500円。情報を得たのが直前だったためあまり良い席ではなかったのだけれど,旧歌舞伎座の1階2等相当。
通常の歌舞伎公演に比べると時間が短いし,当然花道も回舞台もないけれど,その分お財布に優しいお値段と生活に優しい所要時間で,確かにこれはお得。全国を回るのが主目的の巡業なので,首都圏だとかえってスケジュールやその他条件が合致しづらいことが多く,今回はラッキーだった。
主催が違うからなのか,仕様がかわったのか,プログラム(と言っていた)はA4。主要俳優さんのインタビューのところ,去年・今年の主要舞台の写真が複数入っていて素敵だった。イヤホンガイドもあり。ちょっとしたグッズ販売もあり。
客層は地元在住と思われる年配女性が圧倒的多数。若い人(40代・50代)もそこそこいた。30代以下は探してない。
郭三番叟
傾城時蔵,新造梅枝,太鼓持萬太郎,と,父子の風景。
見知らぬ土地の駅徒歩7分に案の定ぷち迷い気味で到着が開演ぎりぎりとなったため,こころが落ち着かぬままするすると始まりするすると幕が下りてしまったのが,いささか勿体なかった。
三番叟物,これが初めて。
一條大蔵譚 檜垣茶屋の場 大蔵館奥殿の場
一條大蔵:菊五郎 吉岡鬼次郎:松緑 お京:菊之助 鳴瀬:秀調 勘解由:團蔵 常磐御前:時蔵
ほんじつのめいんえべんと(ゆいいつのおしばい)。「鬼一法眼三略巻」の四段目相当。
時は平治の乱のちょっとあと。平清盛がときめく中で,全国に散り散りになりながらぢっと時を待つ源氏方のお話し。いちおう時代物の義太夫狂言なんだけど,義太夫よりもセリフのほうが多めで,○○の事件を鎌倉時代にうつして△△といった複雑きわまる背景もなく,人物関係も比較的シンプル(プログラムに相関図が載ってた)で,ストーリーも素直で分かりやすかった。
一條大蔵は馬鹿殿にしか見えない阿呆な公家(源氏の血を引いている)だが,実は清盛を欺くために阿呆の振りをしているだけ。義朝の愛妾で清盛にもらわれてった常磐御前も,清盛の意向のままに大蔵に嫁して遊びほうけていると見せかけて実は虎視眈々と平家の没落を願っている。そこに現れる実直で男前な義朝家臣の鬼次郎とその妻お京。常磐御前がほんとにふよふよしてるんなら殴ってやる,と怒りの様子で登場するも,常磐御前の本心を知らされさらに大蔵がつくり阿呆と知ってハハーとかしこまる。敵役は,大蔵家家老,八剣勘解由。お家乗っ取り&お金が欲しいで清盛と裏でつながってるというのだけれども,かなり小物。現れて一暴れしようとした矢先に大蔵に切られておしまい。そして,夫が悪者と知って自害する鳴瀬。微妙に無駄死に感。
菊五郎が阿呆役なんて,面白いに決まってるじゃないか。いっぱい笑った。
奥殿の場で,最初後ろに色とりどりの布きれがかかってるのが不思議だった。
花道がちょっとしかないので,ひっこみがあっさりなのね。
棒しばり
太郎冠者と次郎冠者が,ヤバイ。菊之助がすけべえな中年男になっとる。眉だけで笑える。にやにやぐへぐへし通し。髭の剃り跡が濃いのがやけにリアル。松緑は爽やかにコミカル,酒好きの好青年の雰囲気。
初演は大正五年というから,わりと新しい作品。題材も狂言なので,セリフもぐっと口語調で聞き取りやすいし,太郎冠者&次郎冠者テンプレートで,ただただ面白い。
結局この2人は,主人の目を盗んで仕事サボって飲めりゃそれでいいわけで,昼日中(推定)から酒蔵であははうふふ,飲めや歌えの大騒ぎ。帰宅した主人に現場をおさえられたところで既にすっかりできあがってるから,相手が主人であるにもかかわらず,「なんだとぉ?」とか言い返しちゃって,殴りかかられても棒で反撃しちゃう。そして追いかけ回しながら幕。
なんというテンプレ。なんというトムとジェリー。なんというおまぬけ。なんという十年一日,いや,百年一日。現代のサラリーマン社会におけるエンプロイヤーとエンプロイーも斯くやあらむ。
これ,昼夜で太郎冠者と次郎冠者を交互に演じているらしく,逆の配役もいつかぜひ見てみたい。次郎冠者のが見せ場が多い。菊之助は扇の持ち替えちゃんとできてるだろうか。どきどき。
帰りみち,駅のすぐ近くで合流した客が松緑のことを「まだ若いのに」と言っていた。ええ,まだ若いですとも。ひよっこ。ぴよぴよ。