わたしの,もうひとつのクラブカップ


無関係な一観客がその場にいるのが珍しいのなら,出ている誰かの知り合いのフリでもしていればいいんじゃないの。


というお話し。フリ,じゃないけど。


クラブカップに行った目的(動機)はいくつかある。その中で,わたしにとって異色だったのは「知り合いが出るから見に行く」というものだった。


まったくの別口で知り合ったわけではなくてプレーヤであるところから繋がった縁ではあるのだが,プレーを見たのは知り合って1年以上経ってから。今回のクラブカップが2度目である。体育館よりもさきに居酒屋で顔を合わせた。だから,知り合いが出る,感覚。


プレーヤという前提で知り合った以上,プレーを見てなんぼだと思う(思っていたい)。場所柄なかなか観られないので,静岡は千載一遇のチャンスだった。


でも,ふだんわたしは「あちら側」と「こちら側」の間には壁があると考えている。透明なアクリルパネルみたいな。ゆえに,その壁がゆらめいたとき,うまくふるまえない。


コートにいるのを見ると,そこにいるのは知り合いのほにゃららくんではなくて,ほかの選手と同じあちら側の人だった。視界がその事実をとらえて現実に直面したとき,少し不思議な気持ちになって,そしてとまどった。そこはわたしにはとても遠い(別の)世界で,彼が遠くに行った気がした。


さて,どうしよう。いつも通り腕組みの一つもして眺めつつ時折気持ち悪く独り言を呟けばいいのか,それとも知り合いらしくスタンドから手の一つも振って「がんばれー」って声をかければいいのか。はたまた,年若の異性の魅力を前に目をハートにして頬を染めていればいいのか。


タイミングを見計らって挨拶にうかがうべきだなのに,要領がわからない。本人を前にどんな言葉をかければよいのかもわからない。


結局何もできなくて,せっかくの機会なのに話もほとんとできなくて,べっこり凹む。


それに,2日で5試合ひとつのチームの試合を追っていると(尤も3回戦は脇見運転だった),チームへの肩入れ比重が増してくる。すると歯がゆさもつのってくる。


2回戦第2セット,マッチポイントに手をかけてからの3連続被ブロックには心中罵詈雑言の嵐だった。あとで本人はエネルギー切れだとかなんだとか言ってたけど,そうじゃねえだろ。揃っているブロックに対してアウト側からクロスに力任せにぶっこむ奴があるか。それも何本も続けて全く同じ形で全く同じ相手にシャットされるとか,小学校の物理レベルじゃねーか。だいいちレセプション免除されてるんならもっと安定して得点しろやごるぁ。


……みたいな。どれぐらい練習しててどれぐらい合わせてるかとか,そんなん知ったこっちゃないしっていう,完璧いつものノリでね。その勢いのまま顔を合わせたとしても言えることなかったね。言い訳ですが。応援してる近所か親戚のおばちゃんになるのは難しい。これで負けたらそうとう凹むだろうなあと心配したりもしたけれども。


好きなタイプのプレーヤではない。物足りないところもある。でも,目の覚めるような高くてパワフルなスパイクは実に爽快で,ボールへの反応もすごく良い。アレの印象がすべてを上書きしてしまったけれど,初日は惚れ惚れでれでれしながら見ていたのも確かだ。


気立てがいいしルックスもいい。おかげでこちらは下心にまみれて浮足立ち,身動きが取れなくて行き詰まる。お話ししたかったのは挨拶云々も嘘じゃないけれど,ほとんどは下心だしな。「好きになった人がタイプです」事例はいくらでもあるわけで,物足りないと言い出した時点ですでにそこに片足を突っ込んでいる。


一方で,あの子のせいで注目カードを見られんかったやんかと文句も言う。伊達と酔狂でしかDDできない(笑)


なんの話だっけ。


そうそう,試合も見たいし,いつか遊びにも行きたい。結局どっちも取りたいんだよ。そのうち慣れて,戸惑いもなくなって,うまくふるまえるようにもなるんだろうか。


だからずっと続けていてください。