團菊祭五月大歌舞伎(幕見)

歌舞伎座


五月恒例の團菊祭。今年は,尾上丑之助の初舞台。そのほかも若い(幼い)役者が出演し,自分と同世代が活躍する。新元号新時代の息吹を感じるものだった。


目下いちばんの贔屓役者(?)である坂東亀三郎は昼の部,初舞台の丑之助は夜の部。この日に行くのは決めていたが,さて困ったどうしよう,なんて迷ってチケットを買いあぐねてもたもたしていたら,数日前の時点で昼の部が売り切れてしまっていた。この日にしか行けないのに。


たまたま出張で来ていた夫が昼前から仕事だったので,朝一緒に家を出ればさほど遅くない時間に東銀座に着ける。出たとこ勝負で幕見に賭けることにした。


10時15分ごろに着いたかな。けっこうな行列で,一幕目の対面と二幕目の勧進帳まではすでに立見。いちばんの目当ての三幕目「め組の喧嘩」はまだ席があった。混むだろう勧進帳だけパスする予定だったのだが,二幕目を飛ばして1と3を同時に買うことはできない(一幕目が終わったあとでいったん外に出て買い直さねばならない)と言われたので,昼の部三幕通しで買うことに。


歌舞伎座の幕見は熟練のスタッフさんたちが見事な腕前で裁いていく。独特の方式に最初は戸惑うものの,係員の指示に身を任せればスムーズにことが運ぶし,存外悪いものではない。金はないが並ぶ時間はある,全演目観る(時間/金銭/興味関心の)余裕はない,劇場の雰囲気は要らない(諦める)が芝居は観たい,という層にはうってつけである。あと,前売り買いそびれた勢にも。四階席の天井桟敷売店もない(1階売店の利用も不可)が,筋書(およびオペラグラス)の販売と,イヤホンガイドと字幕ガイドと飲み物の自販機とトイレはある。イヤホンガイドは500円で下より安い。一幕分と考えると安くないのだが,一台で昼/夜の間は通して使える。


チケットは基本的に一幕ずつ,各幕の30分ぐらい前から販売するのだが,続けて観る場合に限り,昼/夜の中であれば,自分が観る最初の幕のときにまとめて買うことができる。そして,続けて観る場合は幕間の退出不要(係員が場内でチケットチェックを行う)。ということで,「対面」のみで帰るお客さんの空席に収まることができた。上手の端っこではあったが立見とは比べるべくもない。席を確保しチケットチェックを終えたあとで地下のセブンイレブンまでダッシュ。朝から何も食べてなかった。そのため,せっかくイヤホンガイドを借りたのに,幕間の丑之助インタビューは聴けなかった。


もっとも「勧進帳」のあとで中央付近に移動したら,うっかり一列目に座ってしまってえらく観づらかったのだが。幕見の一列目は手すりが邪魔。二列目に座るべし。覚えた。


昼の部が終わって劇場を出たところでそのまま夜の部の幕見チケット待機列に並び,数時間前に会ったばかりの凄腕係員に「あ,こいつさっきもいたな」という顔をされつつ,夜の部二幕目の「絵本牛若丸」を観た。都合四幕。夜は新宿で夫と外食の予定を入れていたのでそこまで。


だって,初舞台は役者人生1度きりだもの。大きくなったときに「初舞台観た」って言いたいから頑張った。


結局舞台写真は買ってない(買うのはなかなかたいへん)が,筋書きに入ってたからいいや。

寿曽我対面


工藤祐経松緑 曽我十郎:梅枝 曽我五郎:萬太郎 大磯の虎:尾上右近 化粧坂少将:米吉 小林朝比奈:歌昇


観たことがあるのかないのかよくわからないのが「寿曽我対面」だけど,一昨年の團菊祭(坂東ご一家襲名&亀三郎初舞台)の劇中口上狂言なので観ていないはずがない。記憶にない(酷い)


若い人メインのフレッシュな顔ぶれ。梅枝・萬太郎の兄弟で兄弟がメタ的な楽しみだけじゃなくて素敵だった。この兄弟コンビ,もっと増えるといいねえ。


そして,米吉さんはいつみても女の子にしか見えない。好き。

勧進帳


富樫:松緑 弁慶:海老蔵 義経菊之助


太刀持の音若の玉太郎が,若々しくて凜々しくて,とっても素敵だった。19歳だそうだ。


こうして配役を並べてみると,平成の三之助だったのだなあ。令和最初の公演に。丑之助は初舞台を踏み,左近ちゃんはまさに声変わりの最中。これで来年(?)には海老蔵の長男が新之助

め組の喧嘩


明治23年が初演だそうなので,だいぶ新しい。舞台はお江戸,文化2年というから19世紀初頭に(化政文化期ですわね)実際にあった鳶と力士の喧嘩が素材。だそうな。


音羽屋お得意の世話物。粋と鯔背と。


200年以上経った今となっては例によって「すまん,理解できん」という理屈で人々が動いているし,仮に同時代人だったとしてもやっぱりちょっと理解に苦しむというか別の世界で生きてるだろうなーなんて思ってしまうのですが。


そのあたりはあまり深く考えずともよく,大詰の派手な立廻りがこの作品の醍醐味だろう。大勢の鳶が屋根に梯子をかけて軽々と駆け上り(たまにしくじるとそれはそれでおもしろい),跳び下り,たっぷり肉襦袢の力士はなにやら振り回す。わーわーいいぞいいぞ。


辰五郎は菊五郎。よめさんのお仲は時蔵さん。劇団印の鉄板コンビ。若いいけめんがわちゃわちゃ出てきて,目の保養。


亀三郎は辰五郎の倅の又八役。彦三郎の文次に肩車してもらって,あれこれ言ってる様が実にかわいらしい。そのあと,辰五郎とお仲が長々とややこしい大人の話し合いをしている間,BGVのごとく人形で一人遊びをし,時折両親に絡む。


すっごい大変なお役じゃないか。台詞もぼちぼち多いし,台詞以外の芝居(平たく言うと遊んでるだけだが)時間がとにかく長い。居る間の話の流れや両親の台詞を全部覚えてないとならないし,おもちゃも多くないのでずっと遊んでるのも大変そうだ(無邪気に無心に遊んでいればいいのか,親に放置されてちょいと退屈そうなぐらいが正解なのかも難しい)。そしていわゆる子別れのシーンで頑是無い感じが涙を誘ったりせねばならぬ。お芝居をするようになったのだなあとしんみりする。


立廻りでは左近と片岡亀蔵のターンがとても素敵だった。左近ちゃんかっこいいかわいい。少年から青年にうつろうお年頃がたまらない。

(夜の部)絵本太平記


菊之助が丑之助を名乗って初舞台を踏んだときに書き下ろされたものらしい。内容は少し変えてるのかな,たぶん変えてるんだろう。両祖父がほんとに終始にやにやにこにこしっぱなし。中の人がはみ出してる。ほかの役者たちも,みなお祝いムード。劇中口上あり。


じゅふたんこと新丑之助がそりゃもうかわいくて,お行儀良くて立廻りも立派で(神の見えざる手により軽々と跳んで肩の上に乗ったりする),ああかわいかったね,と。


帰りに階段をおりていたら,近くを歩いていたやや年配の三人連れが「いいものを観たね」と言い合っていた。ほんとうに。


ここがスタート。それに立ち会ってその様子を観られる楽しさ。